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深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第三章 陰影(いんえい)

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陰影2-1-②:過去が引き寄せる現在

祖父の顔には深い苦しみが滲んでいた。家族の誰も事件のことを口にしない。けれど、その傷は誰の胸にも消えずに残っている。決して触れられたくない傷だ。触れれば、また血が噴き出すような痛みと苦痛に襲われる。


「ごめんなさい。そんなつもりは、本当に毛頭ありません。今日は検察の人間として公式に訪問したわけではないんです。ただ……だからといって、自分の職業を完全に切り離して話を聞くつもりでもありません」


桃香の言い回しは慎重で、どこか自分を律しているように見えた。


「どういう意味ですか?」


浩太は落ち着いた声を意識したが、どこか刺々しさが混ざってしまう。


「この事件について、個人的に知りたいことがあって……」

「つまり興味本位ってことですか?そのために自分の肩書を使って、事件の関係者から話を聞き出そうとしているんですか?」


言い終えた瞬間、浩太は自分の声が予想以上に厳しく響いたことに気付いた。しかし、桃香は浩太の気負った態度に怯む様子を見せなかった。彼女の姿勢には、職務で鍛えた落ち着きというよりも、年若い浩太の反発を真正面から受け止める覚悟のようなものがあった。


「そういうわけではありません。実は……これは公式の見解ではありませんので、他言無用でお願いしたいのですが」


桃香はほんの少し声を落とした。


「お母様の事件が、私が今関わっている事件と、何らかの形で繋がっている可能性があるんです」

「……母の事件が、今の事件と?」


六年前の、あの忌まわしい事件と別の事件が繋がるとはどういうことなのか。意味が全く分からない。六年という年月は長い。普通なら、事件同士を結びつけるには無理があるはずだ。


「全然、意味が分かりません」


浩太は正直な気持ちをぶつけた。


「そうですよね。直接の関係があるわけではありません。ただ、双方に関わっていた人物同士に、妙な繋がりが見つかったんです」


その言葉を聞いた瞬間、浩太の脳裏に”三芳梗子“の姿が浮かんだ。浩太は今でも母を殺したのは、祖母ではなく梗子だったのではないかと思っている。疑いではなく、信念に近かった。祖母が犯人ではあり得ないと今でも確信している。


 そして、母を殺すとしたら、思い当たるのは梗子しかいない。だが、彼女は昨年、何者かに殺害された。いつか、梗子を追い詰めたいと思っていた浩太の思いは、あの時に止まってしまった。そこまで考えて、浩太は今起こっている事件とは、三芳梗子の事件のことなのか。


 しかし、肝心の本人が死んでしまったのではもう追い詰めることすら不可能だ。なのに事件を蒸し返す意味はあるのか、そんな風に思えてくることがある。


「今起きている事件って……もしかして三芳梗子さんの……?でも去年……」


桃香の表情が、ごく僅かに変わった。浩太の推測が核心に触れていることを、隠しきれない顔だった。


「三芳梗子さんのこと、よく覚えていらっしゃいますか?」

「はい。あの人、うちに結構出入りしていましたから。ニュースは殆ど見ないので、事件の詳細は後で父から聞きましたけど……そのあと、依智伽ちゃん、梗子さんの子供なんですが、その子を少しだけ預かったこともあります」


浩太の脳裏に依智伽の顔がふっと脳裏に過ぎった。あの梗子の同じ笑みを浮かべる少女の顔が。


「そうでしたか。でも、どうして梗子さんの事件だと思ったんですか?」

「梗子さんは、母の友達だったので……。母と繋がりのある人だとすれば、彼女が思い浮かんだんです」


言ってから、浩太は内心で少しだけ躊躇った。本当に友達だったのか。母は梗子のことを友達と感じていなかった気がする。梗子もまた、どこか母を見下すような態度があった。二人の関係は、一見、親しい友人のようにも見えるが、互いに互いをよくは思っていない。子供だったけど、そんな風に感じていた

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