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女の子の扱い方

 とりあえず、街には着いた。

 すべての戦闘を逃げて。

 なんだこの体たらく。

 モンスター一匹も倒せない俺も俺だが、大の大人が揃いも揃って役に立たないからだな。


「いや、責任転嫁をするのはよろしくないぜ?」


「うるせえよ。なんでお前らの酔い覚ましに付き合わなきゃいけないんだ。これならハレちゃんのお守りでもしてたほうがマシだ」


「お守りね」


「なんだよ」


「いやいや。お前がそういうつもりなら口は出しはしない」


「遊び人のお前に言われたくないな」


「おっと、大人の俺をなめてんな?」


「子供がデカくなっただけだろ」


「口が悪いな~。ま、否定はできんが、女の扱いはお前よりは長けてんぜ?」


「あっそう」


「何ふてくされてんだよ」


「お前らといるとストレスがたまる」


 やっぱり、ハレちゃんと一緒にいた方がいいな。いるだけで、心の清涼剤だ。和む。


「惚れてんのか?」


「どちらかといえば、愛玩動物的な愛じゃねえかな……」


 恋愛対象として見るなら、同い年なのに、随分幼く感じてしまう。

 妹を見てるようだ。

 妹いたことないけど。


「しょうがねえなっと。ここは俺がいっちょ、お前にレクチャーをしてやろう。影で見てろ」


 意気揚々とユウはハレちゃんを探しに行った。

 レクチャーって、何をレクチャーするんだよ。

 レイさんにぶっ殺されそうなのがオチとして見えてるんだけど。


「ザックはどうする?」


「あん?まあ……行ってみるか。顛末がどうなるか俺も気になる」


 こっちもどうやらテクなどまったく期待してなく、そっちの方に興味を持っていた。

 相手、ハレちゃんだし、姉が憑いているんだから、どうにも出来んだろ。

 さて、あいつはどんな口八丁を使うのやら。

 俺とザックは、ユウを遠巻きに見ながら追跡することにした。


 ーーーーーーーーーーーーー


 追いついたと思ったら、すでにハレちゃんのことを見つけていて、接触していた。

 どうやら、レイさんとスラキンはいないようだ。

 どこへ行ったんだ?


「こちらですよ。ローグさん」


「うおわぁ!」


「しー、です」


 幼い子に悟らせるような仕草をする。

 ハレちゃんがあんな感じなのはこの人の教育のせいなんじゃないだろうか。

 あちらの教育云々は置いていて。


「レイさん。なんでこっち側なんですか?」


「こっちにいた方が面白そうなので」


「はあ……」


「実は……」


「こ~ら。スラちゃん、言っちゃダメよ?」


「スラ……」


 スラキンは何かを言いかけたが、レイさんに口止めをされた。


「動くようだぞ」


「おし、尾行開始だ」


「しかし、俺たち怪しいなこれ」


「スライム袋の中に入れるか?」


「そうしても、実質尾行してるのは、俺とザックだけだしな。スラキン。今、ハレちゃんがどんな様子だったか教えてくれ」


「ユウが飯を奢ってやるって、言ってレイさんに確認を取ったところ、行ってきていいということで、喜んで付いて行ったスラ。あれはデートとかではなくて、単純にご飯が食べれるということに喜んでるだけのようスラ」


「報告ありがとう。まあ、予想通りだな」


「お、店へ入るようだぞ」


「飲食店じゃないのか?」


「どうやら、俺たちにはちと場違いだな。あいつもだけど。もっと言えばハレちゃんもだが」


「金はあるみたいだからな。ドレスコードでも買ってやるのかな?」


「旅でかさばるから買ってもしょうがねえだろ」


「そんな時はこちらでお預かりが可能ですよ」


 いや、だからどこにだよ。無限に預けられる機関でもここには存在してるの?俺、知らないよ。


「そんなんだから勇者失格の烙印を押されるスラ~。スライムのおいらでも知ってるスラ~」


「やかましいんだよ。スライム風情が。蹴り飛ばしてやろうか?」


「ぼ、暴力はいけないスラ」


「お前たち、行くみたいだぞ」


 ザックに諌められて、出てきたユウとハレちゃんを見る。

 ユウの腕には何やら紙袋が提げられていた。

 結局買ったのか。ユウの分をか?


「気が回らんなお前も。ハレちゃんの分を持ってやってるだけだろ。それがエスコートっつうもんだ」


「なんだ?お前はそんな経験あったのか?」


「いや、ないな」


 こいつぶっ飛ばしたい。

 なんでこのパーティ人の燗に触るような奴ばかりなんだ。

 構っても流されるだけだろうし、スルーして2人を追跡していく。

 特に変わった様子は見られないが、ハレちゃんが相手だしな。

 あの子の顔がとても能天気すぎる。おそらくデートなどとは微塵たりとも思ってないな、アレ。


「飯屋に入ってくみたいだぞ」


「……ついでだし、俺たちも食わねえ?腹減ったよ」


「金は?」


「ユウに払わせればいい」


「お前もなかなか悪どいな……」


「資金はあるつったんだから、存分に使わせていただこう」


「ただ飯ほど美味いもんもねえな」


 意見が一致したところで、少し間を空けて店内へと入っていく。

 入っていくが……。


「あいつ。なんつーオシャレなところに入りやがる」


「またも場違いだな」


「金払えばこっちも客スラ。気にすることないすら」


「お前が一番気にしてくれ」


 スライムがなんでいの一番に特攻していくんだよ。ここは仮にも人が経営してる店なんだよ。あそこのバーのオッサンみたいな人たちばかりじゃねえんだよ。

 だが、スラキンが先導して普通に通された。

 なんなの?俺の価値観がおかしいの?それとも、金を払えばみんな客なの?

 そして、幸いなのか、狙いすましたのか、壁を挟んで反対側なので、向こうに気取られずに、観察は可能だ。


「じゃあ、俺カツ丼。お前ら何食う?」


「場違いすぎるわ!カツ丼なんあるか!」


「ありますよ」


 あるのか。定食屋なのか?ここ。


「じゃあ、俺ステーキ」


「おいらピザにするスラ」


「お前の主食ってなんなの?」


「気にしたら負けスラ」


「とりあえず以上で。勘定は、あそこの席に座ってるチャラい男にお願いします」


「かしこましりました」


「……レイさんはどうします?」


 ウェイターが離れた後に聞いてみた。

 さすがに、見えないだろうし、これからどうしようか。これ見よがしに食べるのも気が引ける。


「言いましたよね?無機物は触れないと。ですから、食べ物は普通に触れたりするんですよ。食べさせてもらえばいいです」


「誰に?」


「お昼はあの子にやってもらったんですけど……ねぇ?」


「いや、そんな催促するように言わないでください。おい、ザック」


「トイレ行ってくる」


 逃げた。


「スラキン……は、最初から選択肢に入ってねえな」


「酷いスラ!入れて欲しいスラ!」


 いや……お前、手ないだろ?歩くのだって飛び跳ねてるし、根本的にどうやって食べるんだ?


「ハレちゃんが食べさせてくれたスラ」


「あの子は本当に優しいなぁ‼︎」


「ということです」


「スラキン!お前は酒飲んでただろうが!その時はどうやってたんだ」


「マスターにストローをさしてもらったスラ」


 少しなるほどと納得してしまってる自分がいた。

 酒をストローで飲むとか、絵面的に非常に残念なものになってるとかいうことは置いといて。


「生前は何が好きだったんです?」


「ハレかしら?」


「なんでここであんたの好みを聞いてるんだよ!いや、好みを聞いてるんだけども!ここは食についてでしょうが!」


「ハレを食べちゃいたいぐらい好きだったわ」


「いい直しても何も変わってない!」


「うるさいスラ。静かに食べるスラ」


「いや、まだきてな……」


 いつのまにか配膳されていた。

 あのウェイターどういう神業を使った?


「でも、俺も頼んだはいいけどステーキって初めて食うな」


「学校に通ってる間はどうしてたスラ?」


「半分、精進料理だったような……。たまにハンバーグが出るぐらい。出たら、狂喜乱舞してたな。学校全員」


「なかなか特殊な学校ね……」


 あくまで勇者になることができれば、うまい蜜を吸うことができるのであって、その手前の段階では一に修行。二に修行。三、四も修行で五も修行とか、訳の分からん日程だったしな。

 今、こうして旅に出れてるのが夢のようだ。

 その夢はだいぶ破壊されているが。

 なんなん?このパーティ。


「集めたのは自分スラ」


「集まったのもお前らだけどな」


「ローグくん。早く食べないと冷めちゃうよ」


「いや……こういうとこのテーブルマナーってよく分からなくて」


「んなもんはうまそうに食ったもん勝ちだ。食わねえなら、俺が食うぜ」


 いつのまにか戻ってきていたザックがカツ丼をがっついていた。

 品なんてあったもんじゃない。

 おかしい。こいつらに常識はないの?それとも、俺がおかしいの?気にしいなの?

 でも、知らんことを型だけはめてやってもカッコつかないし、諦めた方がいいか。


「わあ〜ユウさん、綺麗に食べますね」


「紳士の身だしなみさ。ハレちゃんも教えてあげよう」


「ありがとうございます〜」


「…………」


「どうするスラ?」


「無視だ無視」


「さすがにこれぐらい知らないようじゃ、世の中渡っていけないからな。ハレちゃんも早いうちに学んでおいたほうがいいよ。分からなかったら教えてあげるから」


「…………!」


「ローグ。フォークを握りしめてステーキの上に突き刺すな。さすがにそれが行儀悪いことぐらいは俺でもわかるぞ」


「が、ガマンだ……」


 と言いつつも、食事する手を止め、観察は続けている。

 しかも、あいつ俺たちがいること分かっててやってる素振りが腹立たしい。


「あ〜ハレちゃん。口元にソース付いてるよ」


「え〜?恥ずかしいです。んしょ。取れました?」


「ちょっと付いてるな。ほら、こっちに顔貸して」


「んー」


「我慢できるかあー‼︎」


 猛スピードで回り込んで、ユウを蹴り飛ばした。

 ハレちゃんは唖然としてるが気にすることはない。


「てめえはなんだ⁉︎エスコートじゃなくてただのナンパ野郎だろうかコンチクショウ!」


「ったく、痛ってえなあ。ようやく来たか」


 ようやく?


「あとはお前が収拾つけろよ。金は払っといてやっから」


「あ、おい……」


 ユウは会計をしに席を立った。

 その金額に驚愕していたのは言うまでもない。


「ローグさん。いたんですか?」


「隣でわーぎゃー騒いでたんだけどね。むしろ気づかなかったのな」


「こういうところに入るの初めてで。ほら、ドレス買ってもらったんです。どうですか?」


「…………似合ってるんじゃない?」


「なんで溜めたんですか」


「背伸びすることはないってこと。あいつはいったい歳をいくつだと思ってんだよ」


「ぷー」


「ほら、まだソースついてるぞ」


「とってください」


「子供みたいなこというんじゃない」


「ローグさんに取ってもらいたいです」


「なんだそれ」


 口を突き出しているので。口元についたソースを拭き取ってあげた。本当に子供みたいなんだが、本当に俺と同い年なんだよな?


「あとは、洗面所で口周り少し洗っといたほうがいいかな」


「ついてきてください」


「トイレは一人で行ってください」


「もう食べ終わっちゃいましたし、ちょっと、ここを一人でウロウロするのは心細いです」


「え?ちょっと待って。俺、まだ食べ終わってな……」


 俺たちが座っていた席を見ると、すでに食器は片付いていた。

 俺……食べてない……。

 そして、情けなく腹の音が鳴った。


「あの、もしかして食べてなかったんですか?」


「もしかしなくてもそうなんだ」


「じゃ、一緒に食べに行きましょう。ちょっと、ここじゃ緊張しちゃってちゃんと味が分かんなかったんです」


「お腹いっぱいじゃないのか?」


「私が食べられなかったらローグさんが食べてくれればいいので」


「まったく……」


 あんまりガタガタ騒いでいても迷惑なので、早々に出ることにした。

 きっと、あの店は二度と入ることはないだろう。

 入る気が起きないというのが正しい表現ではあるけど。

 そして、俺とハレちゃんはその辺で出ていた屋台のラーメンを二人ですすることにしたのだった。




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