その八
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とにもかくにも、コノハナの夜は穏やかに過ぎ、静かに更けて行く。アタシたちも、今夜は移動の疲れもあるし、早めにお寝んねすることに。
そして翌日。
実は、嬬恋家の人々には前々から予定が入っていた。一家揃ってのスキー旅行だ。アタシ達がお邪魔することになったのは予定が決まった後だったけど、真耶ちゃんが留守番も兼ねて居てくれるならむしろ有り難い、ということで、不在中の嬬恋家を使わせてもらえることになったという裏事情もあったりして。
ちなみに、一番早く目が覚めたのはアタシ、とはいかなかった。
すでに真耶ちゃんの布団が、もぬけの殻になっている。アタシは一度この家にお泊まりしたことがあるので、真耶ちゃんのこの家での一日のルーティーンが始まったのだと分かった。
カーテンを開け、窓に手を触れると、防寒のための二重構造をもすり抜けた冷気で冷やされた、ガラスの感触に驚く。そして窓の向こうに見える一面の雪、雪、雪。
まさに白と黒の、水墨画の世界。でもその中に唯一、カラフルな人影ひとつ、動き回っているのが見える。
神社の朝は早い。この天狼神社もその例に漏れず、早朝の掃除が一日の始まりであり、子どもに最初に課せられる基本かつ重要な「社務」でもある。
真耶ちゃんは神社のしきたりにならい、子ども時代を天狼神社で過ごした。いまは嬬恋家の双子の姉妹、愛香ちゃんと恋香ちゃんがその役目を引き継いでいるものの、今日はお出かけしたので、真耶ちゃんが久々にそれを引き受けているわけだ。
住居から境内の距離は意外と近い。そして、逆に境内からだと住居が目立たないような配置になっている事にも気づく。母屋からでも神社の様子が見られるような工夫がされているわけだ。
だから真耶ちゃんの一挙手一投足も、この部屋からちゃんと見える。しっかりとスキーウェアを着込み、律儀な性格そのままに全てのファスナーやボタンをきっちり閉め、フードを被った上から大きなマフラーをぐるぐる巻き。分厚いスノーブーツとミトンの手袋は細かい作業には不向きだけど、寒さ対策としては万全と言える。それにもこもこの格好での作業も手慣れたもので、両の手で包み込むように持った竹ぼうきを巧みに操る。
それにしても、マフラーの隙間から漏れ出る白い息。かいがいしく働く姿。やはり彼女は神の子なのだと思わずにはいられない。
「なんだろ、尊いっていうのかな、こういうの」
そんなことを思いながら眺めていると、
「くしゅん」
背後の布団の中からくしゃみが聞こえた。どうやら二人の眠り姫たちの枕元にも、冷たい空気が流れて行ってしまったようだ。
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結局、全員ほどなくして目が覚め、一階のリビングに降りていくと、すでに真耶ちゃんは心尽しの朝食を準備してくれている。悪いなあと思いつつも、
「やっぱ朝はこのスケジュールこなさないと気分出ないよねー」
なんてことをニコニコしながら言ってしまうのが真耶ちゃんだということに気づいて安心する。
メニューはゆうべの残ったおかずを上手く交えつつも、寝起きで目覚めぬ食欲中枢を刺激してくれる。美味しそう。
ご飯と味噌汁、そして少々のおかず類。味噌汁の具が豊かで汁より多いくらいなのもコノハナの伝統で、貴重な塩を使った発酵食品であるお味噌を大量に使わないで汁物を作るための工夫でもある。出汁を取るための煮干しも丸ごと入っているのがまた骨に良さそうでもある。
朝食を終えたならば、いよいよ本格的コノハナ観光に出発進行、となる。道先案内人は、もちろん我らが嬬恋真耶!




