その12
「敵艦隊1隻の撃沈を確認」
ラルグが、リンクに報告した。
「ふっ……」
リンクは、苦笑いする他なかった。
艦隊の面々もそんな雰囲気だった。
「それにしても、総司令官閣下は見事すぎますな」
ヴェルスは唸るようにそう言った。
「ああ、隙がないとみられる敵艦隊の攻勢を利用して、好位置におびき寄せた。
そして、目的通り、こうもあっさりと被害を与えるのだからな。
それに、敵の足も止めた。
それも、たった1隻を撃沈した事で」
この戦いは、歴戦の勇士であるリンクでさえ、舌を巻くようだ。
「ええ。
どこをどう攻撃すれば、敵に最大の被害を与えられるか、分かっているようですな」
ヴェルスもまたこの戦いの異常さを感じ取り、生唾を飲み込んだ。
「ああ、全くだ」
とリンクは同意したが、返す刀のように、
「そして、それは敵の司令官も同じだようだな」
と付け加えた。
「……」
「……」
ヴェルスとラルグは、言葉にも出来ないと言った感じで、恐れを伴いながら頷いた。
「閣下、1隻撃沈し返しましたが……」
マイルスターは、戦果にホッとしている訳ではなかった。
「分かっている」
エリオは、マイルスターの言葉を遮った。
そして、
「全艦隊、進路はそのまま、
こちらも敵の動きに合わせる。
総旗艦を中心に、各艦の距離を一旦詰めろ」
とすぐに命令を出した。
その命令を実行するべく、シャルスと伝令係が駆け出していた。
「敵艦隊は流石ですね。
味方が撃沈されたのに対して、頭に血が上る訳ではなく、かと言って、怯む訳でもない」
マイルスターは、いつもの和やかな口調で、感心していた。
流石に、エリオが警戒するだけの事はあると感じた。
撃ち合いは続いていたが、先程までの激しさはなりを潜めていた。
ドッカーンx10からドッカーンx1に急激に減った感じだった。
とは言え、現状は、お互い敵に付け入られないようにする警戒が主である事は明らかだった。
有利な位置取りをさせない為に、その海域に向かって先制的に砲撃し合っていた。
「ああ、すぐに、また攻勢に転じてくるな」
エリオは、当然の如く、とっても厄介そうな表情をしていた。
「反転攻勢はなさらないのですか?」
マイルスターは、いつものペースであるエリオに安心したのか、少し揶揄うように聞いてみた。
「藪蛇になるのが怖いから、それは止めておく」
エリオは、大真面目な表情でそう答えた。
「了解しました」
マイルスターは、短く同意した。
何か、もっと別な事を言われると思っていたので、意外だった。
まあ、要するに、今は、ぼやく暇もないと言った所なのだろう。
(それだけ、この戦いは大変と言う事ですね……)
マイルスターは、改めて、この海戦の大変さを知ったようだった。




