その10
「艦隊陣形を維持せよ。
各艦の距離を保て!」
撃沈されて、反撃態勢に入ろうとした艦隊を、エリオが制した。
味方がやられたのだから、頭に血が上らない訳がなかった。
だが、エリオはそれを制した。
直属艦がやられたのだから、すぐに反撃する選択肢もあった。
それをやらない所が、エリオらしい。
反撃をして、グチャグチャになるより、数的有利を活かして、秩序だった戦いをする事を選択した。
冷静な判断といいたいが、エリオはエリオで、自分の中に渦巻く感情を抑えていた。
まあ、珍しい事である。
とは言え、子飼いの部下がやられたのだから、いくらエリオでも頭に血が上るだろう。
しかし、その感情とは違う事を選択する所が、やはり、エリオらしい。
4番艦が浮いたと同時に感じたエリオとサラサ。
なら、何故、撃沈されたのか?
その理由は、エリオにはよく分かっていた。
指示を出そうとしたが、間に合わなかったのだ。
これは、攻め手の有利さが出た結果である。
この時、サラサの方は、砲撃する相手を変えるだけなので、スムーズに行動できた。
一方、エリオの方は、艦隊が乱れていたので、交通整理を行わないとならなかった。
しかも、それにより、艦隊運動が更に乱れる可能性がある。
それを抑えつつ、指示をしなくてはならない。
かなりの難易度だった。
相手がサラサではなければ、指示する時間があっただろう。
もしくは、あの程度の綻びは見逃してくれただろう。
その差が、結果として表れたのだった。
そう言う事なので、これは、自分のミスによって陥った事態だと認識していた。
その為に、エリオは一層冷静になる必要性を感じていた。
そして、戦い始めて見て、サラサは予想以上にやっべーヤツだと思っていた。
それはそれとして、反撃したくてウズウズしながらも、エリオの命令により、エリオ・アスウェル艦隊は秩序を保っていた。
そして、この行動により、サラサ艦隊の攻撃を去なし切っていった。
この辺は、エリオの優れた統率力なのだろうか?
それとも、クライセン艦隊全体の変態性なのか?
よくは分からない。
とは言え、サラサ艦隊の攻勢はまだ続いていた。
エリオ・アスウェル艦隊が転針した為、直線的に突撃する事は出来なくなった。
それでも、鋭い出足で、依然として、中枢部へ向かってきた。
「よし、敵艦隊最前部の2列目、向かって右側の艦に攻撃を集中!」
エリオはタイミングを見計らって、そう命令を下した。




