その3
ドッギャンーン!! ドドドッカーン!!
東の空から太陽が昇り始めたとほぼ同時に、激しすぎる砲撃音が響き渡った。
それは紛れもなく、海戦開始の合図だった。
バキバキ、ガッシャン!!
バシャ、バシャ、ぎぃぎぃ……。
ただ、合図にしては、かなり激しすぎた。
自室で就寝中だったルドリフは、激しい轟音に飛び起きた。
ぎぃぎぃ!!
艦が激しく揺さぶられており、起き出すのも困難だった。
(何が起きている!!)
ルドリフは、動揺しながらそう思った。
とは言え、何が起きているかは明白であり、正確にはどうして攻撃を受けていると言う方が正しかった。
ルドリフは、激しく揺さぶられる艦内を走りながら、艦橋へと辿り着いた。
そして、この世の地獄ではないかという光景を目の当たりにした。
ドーン!!ドッカン!!バキバキ……。
ギシギシ……。
数多くの味方艦が炎上しており、中には沈んでいく艦もあった。
現在、ルドリフが率いている王都に駐留していた艦隊は、帝都ーサキュス間を航行中だった。
そして、今は、その3/4地点にあった。
帝都の北の海沿いにはサキュスまでは大きな都市はなかった。
なので、○○沖とは言えない海域だった。
まあ、そんな事はどうでも良く、どうして、こんな所で攻撃を受けているのかが理解できないでいた。
「敵艦隊を判別。
クライセン艦隊です」
副官のステマネが、恐怖を押し殺すように、何とか事務的にそう報告をした。
「小僧の艦隊!?」
ルドリフは、叫んでいた。
とは言え、冷静さを欠いたと言うより、周りの状況からして、それは有り得るのかという反応だった。
何せ、数が多すぎる。
「いえ、現在確認できているのは、アスウェル艦隊、ティセル艦隊、そして、アトニント艦隊です」
ステマネは、ルドリフの叫びに対して、追加の報告を行った。
「……」
流石のルドリフも絶句する他なかった。
そして、隣のエンリックと顔を見合わせる形になった。
「……」
エンリックの方も、なんと答えていいか分からずに、沈黙してしまった。
ばっしゃーん!!ぐらぐらぎぃぎぃ……。
旗艦傍に砲弾が着弾し、水柱が上がり、その影響で艦が激しく揺さぶられた。
それにより、ようやく我に返った。
「艦隊を密集させろ!
各艦、孤立させないようにせよ」
ルドリフは、防御態勢を指示した。
ステマネはようやく命令が下されたので、すぐに伝令係に指示を出していた。
ルドリフは、命令を出した後、悔しそうに奥歯を噛みしめていた。
現状は、未だに上手く把握できてはいなかった。
ただ、圧倒的に不利で、絶望的な状況になっている事だけは分かった。
そして、それが現状把握ができない事の原因だという事も分かっていた。
「……」
エンリックの方は、黙る他なかった。
ルドリフの命令はそれしかできなかったし、現状に対するアドバイスできなかった。
とは言え、絶望的な状況とは言え、時間が経つにつれ、状況が分かってきた。
ーーー 海戦概略図 ---
海|
| As
岸| RHTh
| At
線|
リーラン王国側 As:アスウェル艦隊、Th:ティセル艦隊、At:アトニント艦隊
ウサス帝国側 RH:ハイゼル帝都駐留艦隊
---
帝都駐留艦隊は、完全にクライセン艦隊の包囲網に置かれていた。
半包囲であるが、西側は海岸線の為、もはや袋のネズミだった。
そして、正確には分からないが、艦数でも圧倒的な差があるのは明白だった。
損害は増一方で、反撃の糸口さえ、見付けられなかった。




