その2
「で、どうでした?」
バンデリックは、興味深げにサラサに聞いてきた。
2人は既に艦隊に戻っていた。
そして、その艦隊は既にモルメリア島を離れていた。
間抜けた形で、見つかってしまったので、離れた格好だった。
追撃はないとは思われたが、一応念の為であった。
この辺は、いくら間抜けていても、流石と言った所だろう。
でも、まあ、それより、サラサが目的を達成したと判断した為に、帰路に就いていたのだった。
「『どう』って、何の事よ?」
サラサは、怪訝そうな表情を浮かべた。
とは言え、晴れ晴れとした気持ちになっていたのはよく分かった。
まるで、セッフィールド島沖海戦の不完全燃焼な気持ちなどなかったようだった。
エリオを追い回して、邪魔して、何をしているかを把握できたので大満足と言った所だろう。
追い回されるエリオにとっては迷惑この上ない事だが、サラサにとってはよいストレス発散になったのは明らかだった。
「ですから、クライセン公と直接会った事ですよ」
バンデリックは、サラサがどう言う反応をするのかが、本当に興味津々だった。
エリオは妙な行動を取っていたが、それ故に、バンデリックは、シンパシー的なものを感じていた。
それは、何だか分からないが、自分と同じ境遇にいるのではないかというものだった。
まあ、傍からエリオとバンデリックをずっと観察していれば、それは間違いではない事はよく分かる事だった。
「えっ?何、そんな事?」
サラサはあからさまに驚いていた。
「『そんな事』って、閣下……。
直接見たいと仰っていたじゃありませんか!
だから、危険を顧みず、島に上陸したのではなかったのですか?」
バンデリックは、思わぬ反応に落胆した。
そして、それ以上に、反発したくなった。
「うん、言ったけど?」
サラサは、また怪訝そうな表情を浮かべていた。
明らかに、コイツは何を言いたいのか、分からないと言った様子だ。
「なら、直接会って、何か、感じるものがあったのでは?」
バンデリックが、感じるものがあったので、期待しながら聞いてみた。
「えっ?
『直接見る』との、『直接会う』のは、全然違う意味でしょ?」
サラサは、訳分からないと言った感じで、逆に聞き返してきた。
「えっ?」
今度は、バンデリックの方が、訳分からないと言った表情になった。
期待を裏切られただけではなかった。
確かに、「見る」と「会う」では意味が違う。
どういう事だろう?
「だから、あたしはあいつが何をしているかを直接確認したかっただけで、別に、会いたかった訳ではないわよ」
???顔になっているバンデリックに、サラサは説明を加えた。
「……」
バンデリックは、絶句してしまった。
理解できないからではなく、はっきりと理解したからだ。
「別に、やっている事が分かればいいだけで、それは会わなくてはならないという事には全く繋がらないでしょ」
サラサはダメ押しの説明を続けた。
がーん……。
何故か、バンデリックは、衝撃を受けてしまった。
とは言え、この事はエリオとサラサには共通認識があるのかも知れない。
お互い、要注意人物だとは思っているが、だからと言って、直接会って話し合っても仕方がないと考えていた。
「それだったら、何も危険を冒して、島に上陸する必要はなかったのでは?」
バンデリックは、衝撃を受けると共に、気付いてしまった。
「そこは、『流れ』よ、な・が・れ」
サラサは、そう言うと年相応の悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
とても可愛かった。
とは言え、到底、それで誤魔化……、いや、納得できるのではなかった。
「閣下、それはあまりにも……」
とバンデリックは、苦言を呈そうとしたが、
「細かい事はいいのよ!」
と口を挟んだサラサは、最後まで苦言を言わせなかった。
(細かいって……、さっきは、「見る」と「会う」の違いをご指摘なさってのではないですか!)
バンデリックは、呆れていた。
「それより、バンデリック……」
サラサは、急に険しい表情になった。
今までの話の流れを完全に断ち切られる格好になった。
「はい……」
バンデリックは、渋々そう返事をする他なかった。
主がそう言うのなら、無念だが仕方がない……。
「あたしの呼び方を間違えたわね!」
今度はサラサが詰問する番だった。
「えっ?」
バンデリックは、呆気にとられた。
今の会話では、禁句は言っていない筈だ。
だが、ジッと睨み付けられている。
(あっ、あの時……)
バンデリックは、どの場面の事を言われているのかが分かると、暗澹たる気持ちになった。




