表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
とある魔導士少女の物語   作者: 中国産パンダ
23/623

第1章 22.私なりの恩返し

「クラリスー、おはよー!」


 次の日の朝食前のこと…、私はリグから、昨日は何事もなかったかのように元気よく挨拶された。


「お、おはよう…リグくん……。……あの…昨日は本当にごめんなさい…、あれから私を運んでくれたんだよね…。それに私がやったことを庇ってくれたって……」


 私が俯いて力なく謝ると、彼は自慢げながら憎めない顔でころころと笑いながら、こう言った。


「ばーか、俺は男だぜ? かっるい軽い女のお前を運ぶぐらい朝飯前だっての」


 フェルカは『息を切らせてた』って言ってたのに…。


「それに、俺はあの場じゃお前の師匠だからな。弟子のケツを拭くのは師匠の役目だろ?」


 リグへの心咎めは消えないが、彼の屈託のない笑顔といつもと変わらない粗野な物言いに、私は心なしか気が楽になり、いつしか笑みを浮かべていた。


「でも、お世話になりっぱなしなのは悪いし…、何かお返しをさせてもらえないかな…?」


 せめてもの心(ばか)りだが、私は彼にそう申し出た。


「お返しか…」


 彼はしばらく、何か熟考するような仕草を見せる。


「……じゃあ…、ひとつだけいいか……?」


 言葉に詰まりながらも、決意を決めたようにリグが言ったこととは……


「将来……将来、俺と結婚してくれないか…?」


「…………………えっ!?」


 思いもよらない、とんでもない、彼のその申し出に、私の頭の中は真っ白になった。

 言った本人も、顔を真っ赤にして硬直状態になっている。

 非常に居た堪れない空気が流れる中…、私よりも僅差で気を取り直したリグが、自らが作ったこの状況の責任を取るかのように、躍起になって言い訳をする。


「バーカ!冗談だよ、じょーだん! 本気にするなよな……」


「う、うん……」


 未だに動揺している私は、訳もわからず惰性で返事をする。

 ところが、その答えを聞いたリグは、自分が想定していたものと大きく違っていたからか…、「ああっ~」と唸りながら頭を搔きむしり始める。

 再び気まずい時間が流れる中…、彼は話題を無理矢理切り替えるように、話を切り出した。


「そ、そうだ…! 一つクラリスにお願いしたいことがあるんだったっ!」


「な、何かなっ…!?」


 リグの躍起さに釣られて、私もつい高揚気味に応える。


「お前の先生にさ…、ちょっと口を利いて欲しいんだ…」


「先生って、カンタレ先生のこと?」


「うん、そう。実は以前は、あの先生が俺を教えてくれてたんだ。で、あの人怒る時は怒るけど、すごく気さくで良い先生でさ…、俺調子に乗っていろいろふざけてしまって、父上にバレて先生変えられてしまったんだよ…。今の先生むっちゃ怖くてさ…、頭ツルツルで厳つくてゴロツキみたいな…、とにかくもう毎日が地獄なんだ…。だから、あの先生にお前から俺が反省してるって伝えてくれないか? お前、あの人に気に入られているみたいだし、お前の言うことなら聞いてくれるんじゃないかと思ってさ……」


「ふふふ…」


 あんなにも頼もしく大きく見えたリグが、そんな他愛もないことで気に病んでいる様子が、何だか面白可笑しくて…、私は思わず笑い出してしまった。


「わかった。先生を説得出来るかどうかはわからないけど…、一応伝えてみるね」


「おう、頼んだぜ!」


 リグは、上機嫌に私の肩をパシッと軽く叩いた。



 さて、私はカンタレ先生にリグの件を伝えたのだが、先生は本人を連れてくるように私に指示した。

 そして今…、部屋の中には、先生とリグの当事者二人と私の三人がいる。


「さあて…、私の授業をまともに聞きもせず、あまつさえ脱走までしてた悪餓鬼が一体何の用だい…?」


 先生は早々に、リグに対して凄む。

 いつもの減らず口はどこへやら…、彼は彼女の前で、完全に萎縮してしまっている。


「まったく…今頃になって反省してるとかそんなこと言ったって、遅いっていうの! しかも自分の口からじゃなく女の子に言わせるなんて…、男として恥ずかしいとは思わないの?」


「はい…すいません……」


 振り絞るような声で先生の叱責に答えていたリグだったが、突然、自ら話を切り出した。


「先生、お願いします! 俺、心入れ替えるから、一生懸命勉強するから…!、頼むよ…先生……」


 リグの渾身の懇願に、さすがの先生も若干心を揺さぶられたのか…、彼女は苦笑いを浮かべた。


「まったく…アンタはしょうがないねえ…。さて、どうしたものか……」


 悩んでいる様子で、先生は話を続ける。


「私は今、クラリスを教えているからねえ…。別に、二人いっぺんに教えること自体は問題ないけど、はっきり言ってアンタとこの子じゃ出来が違い過ぎる。今のアンタじゃ逆立ちしたってこの子には追い付けないよ。言っちゃ悪いけど、今のアンタじゃクラリスの足手まといになるんだよ」


 リグは先生に、ぐうの音が出ないほどに完膚なきまで言い叩かれ、すっかり意気消沈している。

 しかし…、その二人のやり取りを傍で見ていた私は閃いた。

 彼に()()()が出来るのは、今ここをおいて他にないのではないのかと…。

 思い立った私は、先生に意見した。


「先生、私からもお願いです。リグくんも教えてあげていただけないでしょうか? 私も彼に勉強を教えて、授業に支障が出ないように努力します。ですので…お願いします…!」


「ク、クラリス……」


 リグは、まるで拾われた子犬のような、心に訴えかける目で私を見つめる。


「まったく…アンタたち一体何があったんだい…? まあ、でも、クラリスがそこまで言うんだったらしょうがないね…。私一人の一存じゃ決められないけど、あなたたちのお父上に掛け合ってみましょ」


先生は呆れつつ困惑しながらも、いつものカッコいい爽やかな笑顔でそう言ってくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ