波原良仁という人間
「恋愛なんてクソ喰らえ」
ラノベを読んでいると、このセリフには何度も出会う。
そのたびに思うのだ。
──どうせ三巻くらいで付き合うくせに。
あれだけ恋愛を否定しておいて、気づけばヒロインとイチャイチャしている。読者の自尊心を削るにもほどがある。
…まあ、俺も毎回読んじゃうんだけど。
「今日、放課後お前ん家行っていー?」
「おう!じゃあ先に買い出し行くか!」
そんなことを考えながら気持ちよくラノベを読んでいるというのに、前の席の男子二人はお構いなしに放課後の予定を立てている。
できることなら、もう少し静かにしてほしい。
…言えたら苦労しないが。
ページをめくると、たまに際どい挿絵が飛び込んでくる。
その瞬間、小説を閉じる速度ならウサイン・ボルトにも負ける気がしない。
ついでにスマホで広告を誤タップしてしまったときの電源ボタンを押す速さも、たぶん東大王より速い。
日に日に磨かれていくこの謎の才能は、一体人生のどこで役に立つんだろうか。
「はーい、席に着いてくださーい!」
ガラガラと教室のドアが開き、担任が入ってきた。
高校二年生になって早二か月。
朝からぼっちが確定している俺の人生を、少しだけ振り返ってみようと思う。
◇
「好きです。付き合ってください!」
「かわいい。大好き」
「ずっと前から好きだったんよ」
「付き合って」
「うん、好き」
手紙、手紙、言葉、言葉、また言葉。
小学生だった俺は、それを当たり前のように受け取っていた。
告白されても『あー、またか』、そんなふうに心の中で流して、返事を保留にする。
今思えば、何様なんだよって話。結局、誰とも付き合わないまま小学校を卒業した。
本当に、もったいないことをした。
そのまま中学校へ進学。
小学生の頃の成功体験を引きずっていた俺は、
「中学でも普通にモテるっしょ」くらいにしか考えていなかった。
学級委員には率先して立候補し、発表も積極的に。 勉強も頑張って、ついにはオール5を取ることができだ。
我ながらかなり充実した中学1年目だったと思う。
──なのに。
なぜ誰一人として、俺に告白してこない?
陽キャグループにはいたし、友達も多かった。
でも、恋愛だけは一切動かず、噂すら立たないまま、中学一年生は終了。
その頃から、少しずつ雲行きがおかしくなってきた。
迎えた中学二年生。
俺は「今年こそ彼女を作る」と心に決めた。
それまで化粧水なんて、『ナニソレオイシイノ?』状態だった俺も、おすすめのメーカーや成分を語れるくらいには勉強した。
もともと肌は綺麗な方だったが、さらに磨きをかけ、毎日の運動も欠かさない。
気づけばインナーマッスルまで鍛え始めていた。
どうだ、思い知ったか。
…まあ、この頃の俺は気づいていなかった。モテるためなら努力を惜しまない、完全なる努力型になっていたことに。
そしてそして。
「せーので送ろ?」
「うん笑」
「せーの!」
「良仁」
「美月」
「これからよろしく笑」
「うん!笑」
学校が終われば真っ先にスマホを開き、クラスのみんなには隠れてDMを送り合う相手。 笹原美月。
クラスどころか学年でも有名な一軍女子で、彼女に告白して振られた男子は数知れない。
そんな彼女と、俺は両思いになった。
「学校のみんなには内緒にしようね」
こうして始まった、俺と美月の恋人生活。
青春してるなぁ。本気でそう思っていた。
意味もなく結婚後の生活なんか想像して、一人でニヤニヤして。毎日が幸せだった。
──三日間だけ。
「ねぇ」
「どうした?」
「別れない?」
!?!?!?!?
いや、ちょっと待て。まだ三日目なんだけど?
俺の恋人生活、賞味期限短すぎない?
「やっぱり友達の方が良かったみたい」
頭が真っ白になった。
悲しいとか悔しいとか、そんな感情より先に、
『なんで?』
その一言しか浮かばなかった。
四六時中、美月のことばかり考えていたのに、終わりはあまりにもあっけない。
それでも俺は、最後まで変なプライドを捨てられなかった。
「うん、いーよ。話しにくかったし」
今思えば、素直に泣けばよかった。
強がったところで、何一つ格好良くなんてなかったのだから。
こうして俺と美月の恋愛譚は幕を閉じた。
ちなみに、その後二年間は俺と美月が口を交わすことは、一度もなかった。
それから数か月後。
相手は一つ上の先輩だった。
相手は高校受験が近づき、お互い勉強漬けの日々。話せるのは決まって深夜だけだった。
「え〜? 良仁くん好きな人いるんだ」
「はい笑。というか先輩、今日も見かけましたよ」
「まじぃ?」
…今読み返すと、俺の口調が気持ち悪い。いや、本当に。
送信ボタンを押す前に、一回くらい読み返せよ。当時の俺。
「あ、そうそう良仁くん」
「はい!」
「私AB型なんだけど、良仁くん何型ー?」
そう送られてきた一枚の画像。
そこには大きくこう書かれていた。
『血液型別相性!!』
【AB型のあなたは、同じAB型の相手が一番気が合います!】
その赤字が真っ先に目へ飛び込んできた。
「一番!」という文字がやたら大きかったのもあるが、それ以上に。
当時の俺は、完全に勘違いしていた。
これは脈ありサインなんじゃないか、と。
「AB型です! お似合いですね笑」
送信。
既読。
……。
…………。
返信は、来なかった。
そのまま二度と。
完。
圧倒的に低い恋愛偏差値。
「頭が良い人ほど恋愛には疎い」なんて、どこかで聞いた話がある。
あれ、本当だったのかも。
そして俺は、二次元へ堕ちた。
「お前最近、本ばっか読んでんじゃんw」
「いやいや、三次元とかクソやろww」
いつの間にか眼鏡をかけるようになり、ラノベを読む時間は日に日に増えていった。
中学一年生の頃は、クラス全員と友達になれたのに、中学三年生で新しくできた友達は三人。もちろん全員男である。
青春という言葉をどこかへ置き去りにしたまま、時間だけが過ぎていき、俺は、県内有数の私立高校へ進学した。
だがそこでもスタンスは変わらない。
「青春?そんなもん、とっくに置いてきた。」
これが俺の高校生活。
高校一年間、学年一位だけは守り続けたけれど、それを知る人はほとんどいない。
体育祭も文化祭も、余ったところへ配属されるだけ。
誰かに期待されることもなければ、目立つこともない。
でも、それでよかった。
俺にはラノベがある、ゲームもある。二次元がある。恋愛なんて、もう十分だよ。
そんなふうに思いながら、高校二年生になって二か月。
「今日は転校生が3人もいまーす!」
教室がざわつき始める。別にどうでもいいけど、強いて言うなら静かな人がいいな...友達になれなくてもいいから。
「はじめまでーす!爽乃望宙っていいまーす!」
「は、はじめまして。読売桃奈、です...」
「はじめまして、綾瀬彩華です、これからどうぞよろしく」
いつもうるさい男子たちはこの後に及んでもわちゃわちゃわちゃわちゃ。あぁもうやかましい。
一番後ろの席から、ちょいと顔を本から覗かせると。
うーわ...。絶対一軍やんけ。
盛大な拍手を送られる3人は、これまでみる誰よりも整った顔立ちをしていたと思う。
俺は本に顔を戻す。
まぁ、俺にはまず関係の無い話。喋ることすら危ういだろうな。
頭の片隅にだけ置いていたその3人の顔が忘れられなくなるとも知らずに、俺はまた本にのめり込んでいた。
新作です!
拙い文章ではあると思いますがぜひ楽しんでください!
明日は2本あげます!




