第54話 過去との再会
おれの特殊能力『エリクサー』ってのはこのゾンビ世界では本当にチートスキルだ。
かつて世界をぶっ壊してくれたZ-ウィルスも、おれの周辺では無いも同然。
ゾンビに引っ搔かれようが噛まれようが感染することはもうない。
そこで、おれたちは錬金術の素材集めもかねてちょっと日帰りのツーリングに行くことにした。
おれは愛用のクロスカントリー車で。
鉄男さんはオフロードバイクで。
念のためジルヴァの原チャリも車の上に乗せて。
人数と乗り物が増えたおかげで戦術にも幅がでてきたな。いい感じだ。
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「うおおりゃっ」
「ギャン!」
とびかかってくるゾンビ犬をレーザーブレードで一刀両断。
おれたちを狙って近づいてきたゾンビ犬は、上半身と下半身を切り離されて行動不能になる。
「どんなもんだ!」
結構強くなってきただろう。と自画自賛しているおれを華麗にスルーして、紫織はトトトッとゾンビ犬に駆け寄り金の針でとどめを刺した。
ゾンビ犬はパキパキと音をたてて錬金素材の宝石に姿を変える。
「強くなったのはすごいですけどー、ちゃんとトドメささないと危ないですよ。生き物とは違うんですから」
「わ、わかってるって」
ほめられるどころか説教されちまった。
この子もすっかり場慣れしちまって、昔みたいにキャーキャー騒がなくなったよ。
昔はかすり傷ひとつで人生終わりだったからな。
免疫があるっていう安心感は大きいよな。
「カズヤは残心がまだまだだな」
紫織の兄貴、鉄男さんからも言われてしまう。
「勝ったと思っても油断するなってやつでしょ」
「そうだ。ゾンビ相手だと特にな……」
鉄男さんは自嘲気味にそうつぶやくと、背中の古傷を手でさすった。
「たしか、味方を守るために負傷したんでしたっけ、古傷?」
「ああ。俺も気を付けていれば避けられた傷だった」
……俺も、ってことは。
1,味方がゾンビを倒したと思いこむ。
2,しかしまだ完全破壊にはいたっておらず、ゾンビは再び味方をおそった。
3,その味方を守るために鉄男さんが負傷した。
って感じか。
「残心は大事だよ、本当に」
「はい」
鉄男さんのひと言はおだやかだったが、とてつもなく重かった。
Z-ウィルスのせいで理性をうしない、妹に噛みつこうとした瞬間がかつてあった。
あの一瞬のことをおれたち三人は語らないが、全員忘れているわけがない。
ちょっとの油断が遠因でおこった、一生ものの事件だった。
「ねえー! そろそろランチにしましょうよー! お腹すいたわー!」
暗く湿っぽくなってしまった空気を変えようと思ったのか、車内で怠けていたジルヴァが声をかけてきた。
その流れに紫織も乗る。
「そうですね。そろそろいい時間だし」
太陽は天頂よりやや手前。
午前11時すぎくらいじゃないかな。
まだ「いい時間」ではないような気がするが、だれも文句はいわなかった。
暗い気分になる会話はナシだ。結果オーライの今があるんだから明るく生きよう。
きっと全員おなじ気持ちだ。
「いきますか」
「ああ」
おれと鉄男さんも車のもとへ歩きだす。
あちらの方では紫織とジルヴァがなにやらもめている。
「お腹すいてんだったらご飯の準備手伝ってくださいよー!」
「ええ~めんどくさ~い、あたしは紫織のご飯が食べたいの~」
「もー!!」
いつものだらけたノリで紫織を怒らせているジルヴァ。
あれもきっと暗い気分を吹き飛ばすための演技……だと思う……多分……。
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レジャーシートの上に弁当箱をひろげ、ランチタイムを楽しむおれたち。
しかしおれの脳内コンピューター『ノヴァ』からメッセージが届いた。
『A地点のカメラが人間と思しき集団の存在を確認しました。人数は十人の男女、子供の姿もあります。徒歩による長旅で疲労した様子が見受けられます』
むむ、新イベント開始の予感。
おれの基地はシミュレーションゲームのように北西から順番にABCDE……という感じでマス目に区切ってカメラが設置されている。
つまりA地点っていうのは北西方向の一番外側に配置されたカメラだ。
『急に倍以上の人数を受け入れればトラブルが発生するおそれもあります。一番の問題は食糧問題でしょう。しかしプレイヤー・カズヤが救いの手を差しのべなければ彼らはこの終末世界を生きのびることが出来ないでしょう。彼らに救いの手を差しのべますか? それとも気づかぬふりをしますか?』
……久しぶりだなあこのノリ。あいかわらず地味にイヤな問いかけをしてくるAIだ。
「とりあえず会ってみるしかないでしょうよ!」
おれは仲間たちにメッセージの内容を伝え、とにもかくにもその人たちに会ってみることにした。
車とバイクで急行したおれたちの前にあらわれたのは、おれの知らない人たち。
しかし鉄男さんと紫織にとっては違った。
目の前の十人を見て、兄妹の目つきが厳しいものに変わる。
「お、大原さんたち……生きていたのか……」
大原というのは鉄男&紫織の名字だ。
リーダーと思しき男は、二人のことを知っていた。
「た、助けてくれ。おれたちの街がいま大変なことになってるんだ……」
大原兄妹の表情は曇ったままだ。
どうも明るくてハッピーな展開にはならなそうだぞ。




