第32話 意訳:命が惜しければ俺と結婚しろ!
「百聞は一見に如かずだ、動画をおくるから見てくれ」
「動画? そんなこともできんの?」
勝老人はうなずく。
「君と私なら可能だ」
すぐに脳内AI『ノヴァ』がメッセージを寄こした。
『新しいメッセージが届きました。動画ファイルを再生しますか?』
「い、イエスだ。へえーこんなこともできるんだ」
感心するおれに解説してくれる勝老人。
「この目で見、耳で聞いた情報を私のAI『ベル』に保存させたんだよ。普段は自分で見ることしかできないが、世界で唯一きみとだけは共有できる」
「へえー、そりゃ便利だ」
かるく雑談しているうちに動画がはじまった。
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「しずまれ家来ども!!」
翼をはやした二足歩行の馬。中級天使ジャミスが大声で命令すると、大パニックを起こしていたアニマルゾンビ軍団は一瞬で静まりかえった。
「ヒッヒーン、なかなかやるじゃねえか人間ども! それでこそ来た甲斐があるってもんだ!」
部下の下級天使を二人うしない、アニマルゾンビ軍団の数も減らしたというのにジャミスは余裕の笑顔。
対する人間側、全身プロテクタ―マッチョ軍団は防壁を盾に敵の出方をうかがう。
マッチョたちにまぎれて現所長・南鞠真美と先代所長・南鞠勝も油断なく敵の動向を観察した。
「直接戦闘力はそれなりのモンだ。しっかぁ~し、こういう手で攻められるとどうかなぁ~?」
ジャミスはニヤニヤとイヤな笑顔を浮かべながら両腕……もとい両前足をひろげた。
するとウマ男の頭上にゾンビカラスの群れがあらわれて空の一部を黒く染める。
カラスの群れは一糸乱れぬ統率力で空を旋回し人間たちを威圧した。
そして、地面からもボコボコっと小さな獣が姿をあらわした。
「ちっちゃすぎて見えねえかなあ~? ここにいるのはゾンビモグラの群れだ!」
―――モグラ?
―――なんだそりゃ、雑魚じゃねえか。
マッチョ軍団の中からそんな疑問の声が上がる。
しかし対ゾンビ戦において百戦錬磨の南鞠勝だけは、敵の狡猾な作戦に気づいた。
「それだけじゃねえぞ~? 夜行性だから今はいねえが、ゾンビフクロウの群れも用意してある!」
その言葉の意味を正確にさっして、勝老人は声をふるわせた。
「あのウマ男……、マヌケ面のくせにえげつないことを……!」
ザワザワとざわめくマッチョたちを一喝するように、中級天使ジャミスは大声で宣言した。
「これから貴様らは昼夜を問わず鳥ゾンビとモグラゾンビに襲われ続けるということだ!! 空から! 地中から! 朝でも! 夜でも! 気の休まる時は一切なくなるってことだ!!」
ざわめいていた人間側は一瞬で静まりかえった。
そんなもの防ぎようがない。
核シェルターのような完全防備の設備でもあれば別だが、世界崩壊のあとにつくられたこの施設にそんな高度なものはなかった。
「オレ様はお前たちを殺さない、殺すのはお前たち自身だ! カラスやモグラたちにほんのちょっぴり傷をつけさせるだけでお前たちはゾンビになって仲間をおそう! そのうちお前たちは仲間も家族も信じられない疑心暗鬼になって自滅してしまうのさ。ヒーッヒッヒッヒィーン!!」
邪悪に笑い、勝ち誇るジャミス。こんな凶悪な化け物が『天使』を名乗るのだから悪質極まりない。
悪徳に満ちあふれた『自称』中級天使は、絶望的な状況を人類に突きつけた上で予想外のことを言いはじめた。
「まあ安心しろ。お前たち弱者を皆殺しにするなんて、オレ様も本意じゃない。オレ様は本当は優しいんだ。お前たちに共存共栄のチャンスをやろう」
大量殺人の可能性で脅しておいて共存共栄とは片腹痛い。
ここでついに例の問題発言が飛び出した。
「実はオレ様、現在婚活中でなあ! お前たちの中で一番高貴な女を差し出せ、オレ様の花嫁にしてやる!」
―――いちばん高貴な女?
ウマ男のふざけた要求を聞いたマッチョ戦士たちは、一斉に一人の女性を見つめた。
錬金術研究所の二代目所長をつとめるメガネレディのことを。
「えっ? はっ? ハアアアアアアアアアア!?!?」
南鞠真美所長は、驚天動地の展開に絶叫した。
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動画再生が終わった。
「……こんな状況でね。とりあえずは帰っていったがまたすぐに来るだろう」
「は、はあ」
「大変なことになってしまったよ……」
「そうです、ね……」
正直ちょっと面白いと思ってしまったが、それを言ったらこのお父さんに殴り殺されるかもしれないので黙っておいた。
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