第30話 油断を狙う狩人
ウオオオオオ!!!
ブヒイイイ! ブモオオオ!!
戦場に人と獣の雄叫びがこだまする。
目の前でくり広げられているのは防壁をはさんでの攻防戦。
味方は鋼鉄のプロテクターで身を守り、槍や弓矢といった火薬も電気も使わない旧時代の武器で戦うマッチョ軍団。
敵はシカやイノシシといった地域の野生動物をゾンビ化させたアニマルゾンビ軍団だ。
戦況はたぶん互角。
マッチョ軍団は防御力と組織力が。
アニマルゾンビ軍団は恐怖を知らない突撃力と、動物ならではの敏捷性に優れている。
デイフェンスVSスピード。
個性のまったく違う二つの勢力のぶつかり合いだが、ぶつかった瞬間に優劣が決まるほどの差はないらしい。
なら優劣は第二波から先で生まれる。
「先代所長、ここはおれにやらせてくれませんかね」
おれは先代所長・南鞠勝に申し出た。
「ちょうどいい武器を持ってきているんで」
「よし、ならお手並み拝見といこうか」
許可を得ておれは駆けだした。
愛車の中に狙撃銃を隠してある。
ネクロスの時ははげしく動いて攻め上がる戦いだったので使えなかったが、今日は拠点に居座って守る戦い。
やってやるぜ。
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「グルルル……! あいつら結構やりやがるぜヒツジの!」
「メエエエエエ。そうだなこのままじゃいかんなトラの!」
下級天使トラファルガーと、同じく下級天使『金毛』の羊丸。
二人は後方から余裕の表情で戦場をながめていた。
まだまだ戦いは始まったばかりだ。ちっとも本気なんて出してはいない。
「ちと早い気もするがやっちまうかヒツジの?」
「そうだな、人間どもに我らの恐ろしさを思い知らせてやろうかトラの!」
メエエエエエ!!
ヒツジが後ろで待機していた部隊を呼び寄せる。
ズシン……! ズシン……! ズシン……!
大きな足音とともに近づいてくる大きな影。
それはまさかのゾウ、ライオン、トラ、サイ、キリンなどの、本来この国には生息していない大型動物たちのゾンビだった。
ほかにもサルや鳥類など、器用な裏工作をしてきそうな集団もいる。
「グルルル……おどろいたか人間ども、動物園で捕獲した大物たちだ!」
「シカやイノシシていどに苦戦しているお前たちに、止められるかなあ~? メエーッメッメッメッ」
無慈悲で圧倒的な大勝利を確信し、大型獣の群れとともに前進を開始するトラとヒツジ。
だが、それは間違いだった。
彼らは前に出るべきではなかった。
油断大敵である。
「さあ行け! 人間どもを駆逐すr……」
タアアアアン……!
花火のような破裂音が鳴り響くとほぼ同時。
トラが頭から血を噴いて倒れた。
「トラ! どうしたんだトラの!? おい!?」
突然の凶事を理解できないようで、ヒツジはその場に立ち止まって硬直してしまう。
絶好の的だった。
タアアアアン……!
ふたたび花火のような音が鳴る。
ヒツジもトラとおなじように倒れ、鮮血で大地を染めた。
命令するものを失ったことでアニマルゾンビ軍団は統一意思のない、バラバラの個体でしかなくなった。
ふたたび目の前の人間をおそうものもいれば、急に興味をうしなってボーっと立ちつくすものもいる。
残されたわずかな本能にしたがって大自然に帰っていくものたちもいた。
これはもう人間側の勝利が決まったといっていい状況だ。
だが、二人の天使を葬った狙撃手は貪欲だった。
追い返しただけで良しとはしない。
タアアアアン……!
三度目の銃声。狙撃手はゾウの脚を撃った。
「バオオオオーーン!」
痛みに興奮したゾウは我を忘れて周囲のアニマルゾンビたちを襲いはじめた。
長い鼻でなぎ払い、巨大な足で踏みつぶす。
生き物としての感覚がまだ残っていた個体たちは巨大なバケモノにおそわれてパニックをおこし、周囲をさらなる混乱に巻き込んだ。
混乱は混乱を呼び、はげしい同士討ちが開始される。
ライオンがシカをおそい、その横ではイノシシが暴走して周囲の獣に激突してしまう。
いやもしかすると、これを同士討ちと呼ぶのは間違いかもしれない。
ライオンがシカをおそうのはある意味普通のことだ。
肉食獣と草食獣、捕食者と被捕食者を密集させていた状況がそもそもおかしかったのだった。
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「……なんか、予想以上にとんでもないことになっちゃったぞ……?」
敵の同士討ちを誘発した狙撃手。
つまりおれ、カズヤはちょっとやり過ぎて逆に困っていた。
ゾウを撃ったら暴れるんじゃないかって、その程度の安い考えだったんだけど。
まさかこんな大騒動になるとは……。
「ま、結果オーライってことにしとくかあ」
おれはひとり言をいって自分に言い聞かせた。
いま居るのは本舎ビルの屋上である。
撃ち倒した二体の天使までの距離はたぶん300mていど。
狙撃としては近すぎるくらいの距離で、しかも無風に近い。
ラッキーが重なった勝利だった。
「これであのジジイも少しはおれのことを見直すかな」
などと言いながらノンビリ帰り道を歩いていると……。
「やるじゃねえのゴルゴ13。もっとも、本物のデューク東郷だったら十倍の距離でも当てただろうけどな」
突然、空の上から話しかけられた。
強烈にイヤな予感がして素早くふり返る。
そこには黒いカラスの群れと、二足歩行の白馬が空を飛んでいた。
鎧を着ていて、背中から白い翼をはやした、白い馬。
もしかしなくても天使軍の一人。しかもさっき撃ったやつらより格上の気配。
「オレ様は中級天使ジャミス。大活躍したお前を、オレ様の手で殺してやる」
カラスが一斉に動き出し、おれの頭上を覆いつくす。
おれは今たった一人で、身をかくす場所もない。
やべえ。これはマジでやべえ!
うかつだった。三人目がいるとは思わなかったんだ。
死んだ二匹を笑えねえ。
油断していたのは、おれも同じだった。
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