第22話 「ざまあ」された街
おれとしてはもう二度とこの街に入るつもりは無かったのだが、ジルヴァが良いものを見せてやるというので、ついてきてしまった。
ゾンビとの戦闘前に話はついていたのか、あっさり街の中に通されスーツ姿の爺さんの前までたどりつく。
「一件落着よ。これで私たちの実力がお判りいただけたかしら」
「あ、ああそうだね、ありがとう……」
爺さんは銀色に輝くジルヴァの瞳に射すくめられて、オドオドとおびえていた。
「そう、なら契約成立と判断してよろしいかしら?」
「いやそれはその、ちょっと待って……」
いつもながらこの街の連中は歯切れが悪い。
しかし、契約ってなんの話だ?
「なあジルヴァ、契約って何の話だ?」
俺が耳元でささやくと、ジルヴァはあっけらかんと大声で話した。
「簡単な話よ。あたしたち錬金ギルドのメンバーがこの街を守ってあげようって話」
「なんだいい話じゃん」
・守り手がいなくなったこの街を、錬金ギルドのメンバーが常駐して護衛する。
・錬金術を駆使してこの街の食料生産力を倍増させる。
・街の住民たちにも知識を学ばせ、人材能力の底上げをする。
良いことずくめの夢物語をジルヴァは語る。
だけど街の顔役である爺さんはとてもイヤそうだ。
「し、しかしだからといって我々にあんた達の傘下に入れというのは、いささか急すぎてちょっと……」
なるほど。ジルヴァはこの街の人たちに『支配してやる、ありがたく思え』と言っているのか。
そりゃあ『はいよろこんで!』ってわけにはいかんわな。
でもこの街って芝浦さんがいなくなって、もうまともな戦力が無いんだよな。
ネクロスは死んだけど、次に同じくらいの敵がやってきたら終わりだ。
いまこの街はピンチなんだ。おれに責任取れって言ってきたくらいだしな。
だけど別組織の傘下に入ってしまえば自由をうしなう事になる。
契約なんて言ったところで約束を守るかどうかわかりゃしない。最悪奴隷あつあいだ。
政府や警察がもういないこの終末世界、弱い奴は誰にも守ってもらえずとことん毟り取られていくだけ。
そうなりたくないから、いま爺さんは苦しんでいる。
「とりあえず……人材交流とかからはじめていくというのは……」
支配されたくないけど、守ってもらいたい。
そんな甘い考えが透けて見えるような爺さんの返答だった。
ジルヴァはそう来るのが分かっていたようで、直接返答せず話題を変えた。
「この街ってさあ、評判か~なり悪いのよねえ~。旅人を問答無用で閉じ込めて強制労働させられるってウ・ワ・サ」
「あっそれ本当です! わたしたち一週間閉じ込められました!」
反射的に紫織が声をあげた。
ついでだ。おれも便乗しておこうっと。
「おまけに愛車も財産も取り上げられて、山にいるゾンビを殺してこいとか言われちゃったよ。街の男どもにこの娘が襲われたこともあったっけなあ」
「それは! その、人類全体が大変な時なんだ! 助け合うのが人というものだろう! 仕方がなかったんだ!」
「助け合い? あんたらのは騙しあい奪いあいって言うんだ」
ジルヴァはおれたちの言い合いを楽しんでいる様子だったが、やがて悪意ある笑顔で交渉を再開する。
「ひどいものね。自分は出さず、他人からは欲しがる。収奪者っていうのよそういうの。もうあんた達に力を貸そうなんて物好きはいないわ。私たちをのぞいてね」
「そ、それは極論だ、だれも来ないなんてそんな事は」
「実際減ってるんじゃないの? ここって東京からかなり近いじゃない、逃げてくる避難民とかたくさんいてもいいはずなのに、からっきしなのはどうしてなのかしらね~? 他の街は避難民がもっともっとた~っくさん来てるわよ? あんたたちが調子にのって搾取しまくったせいでしょ」
「うるさい! 人生ってのは助け合いなんだ! いまは辛くても巡り巡っていつか自分に帰ってくるもんなんだよ! 若いもんはどうしてそれが分からないんだ!」
とにかく奇麗事ばかり言いつづける爺さん。
でもなんとなく無責任で薄っぺらい本性が透けて見えた気がした。
「巡り巡って、ってそれ『自分は恩返しもなにもする気ありません』って言ってるようなもんじゃねえか? 赤の他人の努力や苦労はあんたの甘えを許すためにあるんじゃねーぞ?」
「……っ!」
おれの言葉に爺さんはキレて机をバーン! とブッ叩いた。
その音を聞きつけて隣室にいた男たちがドカドカと足音を立てて飛び込んでくる。
「市長ダイジョブっすか!」「市長!」
すごくどうでもいいことだが、この爺さんの役職は市長だということをいま知った。本当にどうでもいいけど。
男たちは席についているおれたちを見下ろし、にらみつけてきた。
二度目だなこの展開。
「あれ、知ってる顔がいるなあー。元気してた?」
男たちの中には紫織を誘拐しようとしたやつもいる。
おなじ奴らばかり見るってことは、本当に人材が不足しているんだな。
今日おれたちはハンドガンで武装している。
だから今回は男たちににらまれても心理的にすごく余裕があった。
けれど武器らしいものをもっていない、しかも女のジルヴァまで平然としていられるのは意外だ。
気が強いっていうか、度胸あるな。
「行動と発言には気をつけなさいね~? 私が戻らなかったら私の仲間たちが徹底的にあんた達を潰すわ。私がうっかり帰り道に交通事故をおこして死んじゃったとしても、あんた達は滅びる状況にあるの」
「…………」
爺さんは無言のまま顔を赤くしたり青くしたりといそがしい。
こんな程度の低い政治家を市長にしなけりゃいけないってのが、そもそもの不幸なのかもな。
「断るっていうなら、私たちはこの街の真実を近くの街に全部言いふらすわ。拉致、監禁、強制労働のひどい街だって知ったら、もう誰もあんた達の相手なんてしないわ」
「そ、そんなひどい! そんなのはおかしい!」
「おかしいのはあんたらでしょ」
ジルヴァの右手がキラリと光った。
光るなにかが目の前のテーブルに突き刺さる。
それは針だった。黄金に輝く一本の針。
次の瞬間、テーブルは紫色の宝石に変化し粉々に砕け散る!
ガシャアアアン!!
美しくも恐ろしい光景にだれも声が出せない。
床にちらばる宝石。ほんの数秒前までテーブルだったもの。
街の外でゾンビの群れがこうなるのをおれたちは見た。街の連中も見ていた。
そしていまテーブルがこうなった。
……きっと人間もこうなる。
自分の身が宝石になって砕け散るシーンを想像して、おれは心の底が震え出すのを感じた。未知のものに対する、おさえきれない恐怖心だ。
「守ってほしいなら対価を払いなさい。自由がほしいなら自分たちで勝ち取りなさい。どっちもイヤなんて甘えが通用する時代じゃないのよ。自分じゃなんにもできない弱者は強者に従うほかないの、わかるでしょ?」
「し、しかし……」
爺さんはすがるような目つきでおれの顔を見た。
なんだよ? 溺れる者は藁にもすがるってか?
冗談じゃない。おれはお前たちの被害者だぜ。
すこし憐れには思うが、身から出た錆だろう。
これまでやってきた悪事のつけが自分たちに跳ね返ってきたってだけさ。
結果。
この街はジルヴァの所属する錬金ギルドとやらに加盟することになった。
これっていわゆる「ざまあ系」の末路なのか?
ジルヴァは「良いものを見せてやる」って言ってこのシーンを見せてくれたわけだが、はたして良いもんだったかどうか。
世知辛い世の中ってのを見せつけられて、おれとしては苦笑するしかねえな。
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