第20話 黄泉《ヨミ》さまの理想社会
頭の良すぎるやつってのは、人とは違いすぎるとんでもない発想にいたることがある。
事の発端はそんな感じ。
世紀の大天才であり、狂気のマッドサイエンティストが世界を崩壊にみちびいた。
そいつの名は泉黄金。
死者の国の名前にちなんで「黄泉様」などと呼ばれているという。
黄泉はある日、イカレた脳みそでイカレたことを考えた。
「人は意思があるから悩み、苦しむ。生老病死の問題からは何者も逃れられない。
また騙し、奪い、犯し、壊すのも意思があるからだ。
意思など初めからないほうが人は幸福であり、世界にとっても都合が良いのではないか?」
まるで十代の青少年の妄想だが、世界にとって非常に不幸なことに黄泉はそれを実現できる悪魔的頭脳をもっていた。
悪魔的頭脳が生み出した狂気の産物こそ、人をゾンビに作り変えてしまう邪悪なる大発明「Z-ウィルス」なのだ。
「私は救世主になるために生まれてきた」
世界最悪のイカレ野郎は恍惚とした表情で天をあおぎ見る。
「私の福音を世界のすみずみまでとどける同志が必要だ」
いわば黄泉はイカレた新興宗教の教祖。
教祖だけで宗教活動はできない。信者が必要だ。
その信者どもの中でも特別能力の高い者たちに、恥知らずにも堂々と「天使」という称号をあたえた。
黄泉と天使は布教活動という名の病原菌テロを世界各地で行い、その結果いまにいたる――――――。
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……十分ほどの動画再生が終了した。
短いが、濃い内容だった。
「おい、この話は本当なのか?」
頭をかかえながらつぶやくおれの脳内に、ノヴァの声が響く。
「はい。泉黄金という人物がZ-ウィルスを発明し、同志たちとともに全世界に散布したのです。
天使の称号をあたえられた者たちは、ウイルスの影響なのか、それとも他の要因があるのか、普通の人間にはあり得ない特殊な能力をもっています」
「その最底辺のやつがネクロスだったってわけか……」
おれはまだ機械におさまっているネクロスの指をみた。
ゾンビを操れるってのはとんでもねえ事だと分かっちゃいたが、こいつはさすがに想定外のとんでもなさだ。
世界をぶっ潰した中二病全開のテロ集団が、よりにもよって救世主や天使を名乗るなんてよ。
天罰とかそういうの無いのかねえ? 頼むよ神様?
『プレイヤーであるカズヤ、あなたはせまり来る「天使」軍団から人類を守るために戦わなくてはいけません。それがあなたに課せられた使命なのです』
「冗談キツイぜ……」
『冗談ではありませんよ。そういう内容のゲームで―――』
「わかってるよ! お前はいっつもそれだな!」
ついうっかり大声を出してしまった。
横で静かにしていた紫織がビクッと身を硬直させる。
「わりぃ、ちょっと冷静じゃなかった。今日はもう休むわ」
おれは逃げるように部屋をでた。
ゲーム? ゲームだと?
なるほどゲームならこんな設定のものがゴロゴロあるだろう。
だが目の前に広がる世界を目撃してしまうと、あまりのグロさに眩暈がした。
物理的にも、精神的にも、この世界はグロすぎる。
コールドスリープ中の鉄男さんの姿が脳裏に浮かんだ。
そして仇を討って笑顔で死んでいった芝浦のおっさんの姿が浮かぶ。
ここまではともかく、おまけに他人を頼ることしか出来ねえ街のダメ人間どもの姿まで浮かんできやがった。
こんなゲームがあるか? 人間のくだらねえ、きたねえ部分まで超絶こまかく描写されたって喜ぶプレイヤーいねえだろうよ。
この世界は現実だ。面白くもねえイヤな部分がそう実感させてくれた。
だけど、じゃあどうする。
動くことをやめて引きこもるって選択肢はとれない。とりたくない。
おれは鉄男さんを助けるって約束したんだ。
だけどマシンガンの弾を大量にぶっ放しているだけじゃ解決しねえ世界だってことをあらためて思い知り、おれはちょっと疲れちまった。
今日のところはもう寝る。
寝て、明日からまた元気を出そう。
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