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おっさん異世界で最強になる ~物理特化の覚醒者~  作者: 次佐 駆人


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25章 大いなる災い 06

 川を渡り、湿った地面を歩くこと少し。


 ドロツィッテが、急ぎ足で後ろからやってきた。


「ソウシさん、気付いているかい?」


「森の雰囲気が変わったことか? それなら少しな」


「川というのは土地を隔てるものだからね。川のこちらと向こうで棲んでる動物が違うとか、そういうのは時々起こる。そしてそれは当然モンスターも例外じゃない」


「確かにそうだな。川を渡れる動物もモンスターも限られるだろうからな。そうすると、川を越えたこちら側がこの森の本当の始まりということになるのかもしれないな」


「そういうことだね。ほら、ラーニがなにか見つけたみたいだよ」


 見ると、ラーニが隊列を外れて、一本の大樹の根元を見下ろしていた。


 近づいていくとこちらを振り返り、


「たぶん近くにオークの集落があるわね」


 と言ってきた。


「痕跡があるのか?」


「うん。オークって木の根元付近に印をつけるんだよね。まあ要するに小便をそこにかけるってだけなんだけど」


「マーキングってやつか。オークの匂いはわかるか?」


「なんとなく漂ってる気もするけど、この森ってニオイが消えやすいみたいで、まだ正確にはわからないかな。ただ印の跡は臭うから、それをたどれば集落は見つかると思う」


「なら探してくれ。集落となれば見過ごせない」


 冒険者の駆け出しのころにゴブリン集落の討伐に参加したことがあるが、ゴブリンやオーク、オーガといった人型の社会性があるモンスターは、稀に集落を作って繁殖することがある。


 それがゴブリンぐらいならまだいいが、オーク以上となると戦争みたいな戦いになることもあるらしい。幸い俺がこの世界に来てからオーク以上の集落の噂は聞いたことがなかったが、今回ついてそれに対することになりそうだ。


 今の話を聞いて、メンバーの間にも少しだけ緊張感が高まったようだ。正直俺たちならオークなど一万いても相手にならないだろうが、侮らないことは重要だ。なにしろこの森は奴らの縄張りであり、地の利は奴らにあるのだ。


 感覚に優れたラーニとカルマを先頭に、森の探索を続行する。


 獣人族は森の狩りに慣れていて、獣やモンスターの痕跡を見つけるのに長けている。彼女たちはオークのマーキングを目敏(めざと)く――いや鼻敏くと言うべきか――見つけて、どんどんと先へと歩いていく。


 行くこと30分ほど。遂に俺の気配感知にもひっかかるものがあった。


 多数の『なにか』が、木々の向こうに集まっている。気配からすると、そこまで強くはないモンスターだ。確かにオークあたりだろう。


 ラーニが振り返り、「ソウシもわかるよね?」と確認を取ってきた。


「ああ、さすがにな。見事な追跡だった」


「すごくわかりやすかったからね。逆に言うとそれだけ集落が大きいんだと思う」


「なるほど、しかしオークの大集落となるとなおさら潰しておかないとならないな」


 振り返ってドロツィッテに確認を取ると、彼女もうなずいて


「もちろんモンスターの集落は最優先で潰しておきたいね。『大いなる災い』とは関係なく放ってはおけない存在だからね」


 と即答する。


「よし、このまま集落まで接近して様子を見て突入、殲滅(せんめつ)する。皆用意をしておいてくれ」


「はいソウシさま」


「任せるのじゃ。オーク程度なら『精霊』は無敵じゃ」


「モンスターの集落を殲滅するのは冒険者の務め。一匹も逃さず片付けねばならぬ」


 すぐ後ろにいたフレイニルやシズナ、サクラヒメが答え、他のメンバーも表情を引き締めている。


 そこからさらに木々の間を抜けていくこと10分ほど、オークの気配はいよいよ近くになってきた。もうラーニでなくても樹間を漂う生臭さ、獣臭さを感じるくらいである。


 そして、あと少しで一番近い気配の主が見えてくるか……というところで、


 ブヒャアアアッ!!


 と、奥の方で、いきなり大きな叫び声が上がった。


 それはダンジョンでも聞いたことがあるオークの叫び声であったが、その声の様子からすると、強い警戒とか、仲間に注意を促すもののようであった。


「感づかれたか……!?」


「ん~、いや、違うっぽいよ。なんか急に別のモンスターが現れたみたいな感じね」


 ラーニがそう言いながら、耳をピクピクと動かす。


 確かに、今急にオークよりも強力なモンスターの気配が、オークの集落の真ん中あたりに現れたようである。そして、オークたちをそれから逃れるように、四方八方に広がり始めたようだ。


「こっちにも来るぞ!」


 多くの足音と、ブフッ、ブヒッ、というオークの声が木々の間を伝って耳に届いてくる。


 すぐに、身長1メートル後半くらいの、豚の頭を持った二足歩行のモンスターが、必死の体でこちら走ってくるのが見えた。


 見えるだけで20匹以上、奥にはその十倍はいるだろうか。


 彼らは一目散に逃げだしているようで、最初俺たちを見ても気付いていないように走り続けていた。


 しかし途中でモンスターとしての本能が戻ったのか、手にした石斧や棍棒などを振り上げて襲い掛かってくる様子を見せた。


「とりあえずオークは倒そう。奥の強いモンスターの動きに注意だ」


 俺は前に出て、目の前のオークを正拳突きで粉砕していった。『万物を均すもの』だとオーバーキルになる上に、木まで破壊しかねない。


 ラーニ、サクラヒメ、カルマ、マリシエール、マリアネたちもそれぞれ襲いかかるオークを、子どもでも相手をするように倒していっている。正直オークが相手ならフレイニルでも殴り勝てるだろう。


 珍しくドロツィッテも細剣(レイピア)で戦っている。さすがに乱戦気味になると魔法は使いづらい。


 スフェーニアはいつの間にか木の枝の上に立っていて、そこから矢を連射していた。


『精霊』と『黄昏の猟犬』の働きもあって魔導師組はほぼ出番がないが、これは仕方ないだろう。


 10分くらいで、こちらに逃げてきたオークはほぼ殲滅できた。問題はオークを追い立てている強力なモンスターの存在である。気配感知によると動きがないので、こちらから接近するしかない。


「奥にいるモンスターを確認する。ついてきてくれ」


 俺は指示を出して、気配のする方に歩いていく。かなり強い気配なので、『万物を均すもの』『不動不倒の城壁』は出しておく。


 気配まであと少しというところで奥から音が響いてきた。湿った破砕音、大型モンスターの咀嚼音だろうか。モンスター同士でも捕食関係は成立するそうなので、なにかがオークを食っているのかもしれない。


 さらに歩いていくと、木々の間に茶色い物体が見えた。どうやら巨大な管状のモンスターのようだ。『ワーム』という巨大ミミズ型のモンスターがいるが、それに近いものだろう。


 ただ、驚くことに、その胴体は太さが3メートルくらいある。以前『ジャイアントワーム』というボスとダンジョン内で戦ったことがあるが、それでも太さは1.5メートルくらいだった。それを考えると恐ろしく巨大な個体である。


 そのワームだが、一方は地面の下に潜っているようで、地上に現れているのは一部だけのようだ。それでも木の間を見え隠れしている胴体は20メートル以上ありそうだ。


 視線を移していくと、その頭部が見えてくる。今まで見てきたワームと同じように、頭部はまるまる吸盤のような口になっていて、その中には無数の牙が円周上に並んでいる。


 気になるのは口の周りに太い触手が無数に生えていて、それが10体ほどのオークを捕まえて宙に持ち上げていることだ。今まさに、その触手の一本がオークを口の中に放り込んだ。すると口が閉じて、オークの悲鳴とともに大きな咀嚼音があたりに響いた。


 この世界に来てから見た光景としてはトップクラスにグロテスクなもので、俺もつい顔をしかめてしまう。


 見るとフレイニルは顔色を悪くしていて、ラーニも眉をひそめていた。


「あのような恐ろしいモンスターがいるとは思いませんでしたね、ソウシさま」


「ワームは今までも戦ったことがあるが、あれほど大きいのは初めて見るな。しかしあんなものが森に生息しているとは驚きだ」


「もしかして、あれが『魔物の王』なのでしょうか?」


「どうかな。あれくらいならむしろありがたいくらいだが……」


 捕食シーンこそ目を背けたくなるようなものであったが、あの巨大ワームは俺たちからすると大して脅威ではない。


 ともかく、見つけてしまった以上討伐する以外の選択肢はない。

所用により7月31日の更新は休ませていただきます

次回更新は8月3日になります

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