24章 異界回廊 33
『王家の礎』ダンジョン地下46階は、砂漠の中に設置された円形の石舞台という開放型の階層だった。
周囲の砂漠から出現したのは『ヘビースコーピオン』というサソリ型の金属製ゴーレム。
最初に出現した数は8匹だったが、全滅させると次の一団が出てくるというタイプの戦闘で、結局ヘビースコーピオンの出現回数は8回を数えた。出現数の合計は一度の出現数に多少誤差があって72匹だった。
戦闘終了後、マリアネが、モンスターの素材を一つ拾い上げながら俺のところにやってくる。
「一度に出現されるよりはいいですが、休む暇がないというのは面倒かもしれませんね」
「一匹でも残っていると次のモンスターが現れないようだから、一匹を瀕死の状態で残して休むというやり方はあるかもな」
「なるほど、それは少し調べる必要がありそうです」
俺の考えは多少ゲーム脳的なところがあるので、真面目なマリアネに納得されると少しだけ「それでいいのか」という感がある。次の階でしっかり検証するようにしよう。
なお、マリアネが手にしているモンスターの素材はバスケットボール大の球体で、持つとかなり軽く、触った感じがプラスチックに似ていた。
「これは『万能樹脂』というものだそうです。熱を加えると溶けて様々に変形させることができ、溶かした時に魔力を加えることで特性を変化させられるそうです」
マリアネの『鑑定』によって、どうやらそのままプラスチックであることがわかる。これほど深い階層でAランクモンスターから取れる神謹製の樹脂である以上、相当に高性能なものだろう。ただ数は取れないのが明らかなので、前世地球のように安価で普及することはなさそうか。
もっとも、これも明らかに俺とライラノーラの相乗効果により現れたものだろう。とすれば、今後下位の樹脂が低ランクのモンスターから出るようになるのかもしれない。
「ゲシューラ、ちょっといいか」
「なんだ?」
「この『万能樹脂』は、たぶんいろいろなものづくりに利用できると思う」
「どのような利点があるものなのだ?」
「加工が容易、軽くてそれなりに剛性がある。電気を通さない、腐食に強い、そんなところか。ただこれはダンジョン産のものだから、それ以上の機能があるかもしれない」
「なるほど。しかし今のソウシの話を聞くだけで用途は非常に広そうだ。研究の価値は大いにあるな」
素材としては面白いものが得られたが、市場に出してもそこまで価値はないだろうか。プラスチック製の置物が高級品として貴族の家に飾られるというのは想像しがたい。
さて、地下47階も出現するのは同じヘビースコーピオンであったが、出現回数は倍の16回となった。
「いい加減もう終わりにしてよ!」
とラーニが叫ぶほどで、皆も最後はかなりうんざりした顔になっていた。
なお、最後の一匹を残す攻略法は有効だと分かったので、集中力を切らさないために3回の休憩を入れた。手足と尻尾を切断されて放置される大サソリの姿はさすがに可哀想ではあったが。
地下48階も同じ、周囲が砂漠のダンジョンである。上階では遠くに見えた遺跡群が、かなり近くに寄ってきているのが違いである。
出現するモンスターは、SF映画で見たような巨大なミミズであった。頭部は円錐状になっているが、それが四方向に開くと牙が並んだ大きな口が現れる奴である。
胴の太さは直径3メートル以上、全長は30~50メートルと個体差がある。全身は金属と思われる鱗で覆われていて、頭部さえ見なければ太い蛇に見えなくもない。
それが砂漠からぬっと現れて次々に石舞台に上がってくるのだが、その数は20匹以上になった。
「これも何回も出てくるのしょうか?」
とスフェーニアが口にすると、ラーニを始めカルマやシズナがすごく嫌そうな顔をした。
「『ビッグイーター』というモンスターです。特殊な攻撃手段はないようですが、体内では強酸が分泌していて、飲み込まれたら非常に危険とのことです」
マリアネの『鑑定』から、俺たちにとっては与しやすい相手だとわかる。
「飲み込まれないように注意して戦おう。いつもの通り半分は俺が受け持つ」
特に細かい指示を出さず、皆に任せることにする。
後衛陣は『精霊』にまたがり、残りの『精霊』も獣形態で回避主体の構えを取る。
ヘビーワームがジャラジャラを鱗が擦れる音をたてながらこちらににじりより始めたので、各自散開して攻撃を始めた。
もちろん最初はフレイニルの『神の後光』、その後後衛陣の魔法が次々と着弾し、早速2匹を消滅させた。どうやら頭部を潰せば絶命するようだ。
俺は『誘引』スキルを発動しながら走っていき、大口を開いて丸のみにしてこようとするところを、『万物を均すもの」で頭部を粉砕していった。強酸らしき液体も派手に飛び散るが、絶命すれば身体ごとその飛沫も消滅するので問題はない。そもそもオリハルコンは酸では溶けないし、皮膚にかかっても『再生』スキルの方が強力なので効果はない。
叩いた感じ、防御力は先のヘビースコーピオン並みに高そうだ。ただ、俺が知っているAランク冒険者なら攻撃は通じるだろうし、普通のAランクパーティであれば4、5匹なら同時に相手はできそうだ。
見ているとラーニやカルマ、サクラヒメなども1対1で余裕で戦っているので問題はない。噛みつきよりもむしろ巨体で暴れられるほうが厄介そうだが、高レベル『疾駆』持ちなら問題ない。
ラーニやマリアネなど『跳躍』スキル持ちは、頭の上に飛び乗って斬り付けていたりもする。
ヘビーワームも全滅させると次の集団が来るタイプで、全部で5回出現した。全部で120匹を超える数を倒したことになる。
「一体一体は丁寧に倒していけば問題はないが、こうも続くとさすがに体力と精神力が殺がれるでござるな。そう言った意味では危険な相手でござる」
全滅させた後、下へ続く階段の出現を確認した後サクラヒメがそう漏らしたが、なるほど体力と精神力の両方を試される階層なのかもしれない。
なおヘビーワームの素材は伸縮性のある化学繊維のような薄い布であった。白黒赤青黄緑紫橙と様々な色のものが揃っている。
「『万能布』という素材です。耐久性、耐候性、耐酸性、不燃性が非常に高い布のようですね」
ということで、こちらも要するに神謹製の化学繊維ということだろう。スポーツウェアなどに使えそうだが、入手の難度を考えるとこれも一般に普及はしなそうだ。
地下49階はヘビーワームが10回という長丁場で、皆体力はともかく精神的な疲れが見えた。
そこで地下50階に下りる前に昼食を食べて、大休止することにした。
「ねえソウシ、昨日のパフェ作ってくれたら最後頑張れるからお願い!」
とラーニが手を合わせて来て、しかもスフェーニアやシズナ、さらにはマリアネやライラノーラまで賛意を示したので作ることになってしまった。
疲労時の甘味は効果が高いので構わないのだが、豪華デザートが日常食になってしまうのもちょっと怖い気はする。
4月23日の更新はお休みさせていただきます。
次回更新は4月26日になります。




