24章 異界回廊 31
深きものと昏きものという強力なボスを倒した結果、現れた宝箱は、虹が一つに金が二つだった。
「ということは、あの2匹の深きものもレアボスということでしょうか」
「どうかな。ここは深層だから通常ボスでも金が出るのかもしれない」
マリアネにそう答え、宝箱を開けたい視線を送ってくるラーニとシズナにオーケーを出す。
金箱から出てきたのは、『剣魔の嗜み』という、『先制+2』『二重魔法+2』『金剛力+2』『剣加速+2』の効果がついた髪飾りと、『聖女の白』という名の、『金剛体+2』『金剛壁+2』『全属性魔法耐性+2』がある、白を基調として、金の刺繍が入った女性用の神官服だった。
前者は細剣と魔法、両方を操るドロツィッテのものとなり、後者は見た目と名前からフレイニルのものとなる。
「これほど強い力を感じさせる髪飾りが存在するとは、これはもう奇跡としか言いようがないね。これひとつ身に着けるだけで冒険者のランクが変わるくらいのものだよ」
「ソウシさま、ありがとうございます。とても美しく、そして神聖な力を感じる服です。大切に致します」
と、2人とも満足の様子だった。
そして注目の虹箱だが、こちらは女性用の軽装鎧が入っていた。紫色を基調としてオリハルコンの白金があしらわれた、見るからに高性能な鎧である。見た限りかなりの軽量化が施されていて、スピード型の戦士が身に着けるものだと分かる。
「『紫電の女王』という鎧です。『金剛体+3』『金剛壁+3』『翻身+3』『疾駆・瞬+3』の効果があります」
マリアネの『鑑定』結果も溜息が出るものだ。特に『疾駆・瞬+3』はマリアネの防具に続けて2つめだが、『疾駆』スキルがついた防具やアクセサリーはほとんど存在しないらしい。その上位スキルがついたこの防具の価値は計り知れない。
「強敵を倒した結果としては十分以上に満足できるものだったね」
と言いながら、記録を取っているドロツィッテ。
一方ラーニがワクワクした顔で俺をじっと見てくるが、何を期待しているかはよくわかる。
「この鎧は女性用だし、ラーニかマリシエールが対象者になるだろう。見た目からするとラーニ用のものな気がするが……」
「ええ、それはラーニのものだと見ただけでわかりますわ。ソウシ様の判断で間違いないかと思います」
マリシエールもそう認めたので、『紫電の女王』はラーニのものとなる。
「やった~! 実は見た瞬間これしかないって気に入っていたんだよね!」
ラーニは飛び上がって喜んでいて、勢いあまって俺に抱き着いてきた。といってもお互い鎧を着ているので、ただ金属音が鳴り響くだけなのに笑ってしまう。
「よし、では今日はここまでだ。やはり今日一日は負担が大きかったと思うから、ゆっくり休むとしようか」
「はいソウシさま」「は~い」「今日は一段と美味なものを食べたいのう」「それがしはやはりアイスクリームを所望したいのだが……」「それはわたくしも是非」「大丈夫でしょ、ソウシなら作ってくれるって」「アタシは酒だねえ。ウイスキーをいただくかね」「いいですね、私もご相伴に預かりましょう」「マリアネも酒が好きなのをだんだん隠さなくなってきたね」
思い思いのことを言いながら、俺たちはセーフティゾーンに移動を始めた。
キツい戦いの後は、やはり美味い飯に限る。
というわけで、今日の料理番であるフレイニルとカルマ、ドロツィッテが料理を作っている。
ちなみに俺は料理番ではなかったのだが、米や酢、そして生魚と醤油があるので、見よう見まねで握り寿司を作ってみた。正直見た目はプロの料理人が握るものどころか、スーパーのパックの寿司にも劣るようなものだったが、それでも途中で味見をするとあの懐かしい味がして少しジンときてしまった。
「あ、ソウシ、それなに?」
「美味しそうな料理じゃのう」
「不思議に心惹かれる料理でござるな」
食への好奇心が旺盛なラーニ、シズナ、サクラヒメがやって来て、不格好な握り寿司を、興味深そうにのぞき込んできた。
「これは寿司っていって、俺の国じゃ有名な料理なんだ。料理人ならもっと上手くできるんだが、まあ寿司の味にはなってるはずだ」
「ふ~ん、どれどれ?」
「ラーニ、抜け駆けはいかんのう」
「ソウシ殿、一つ頂いてよいか?」
3人はそれぞれ一貫を一口で食べて、
「あ、これならわたしでも生魚が食べられるかも。なんていうか、食べ慣れたら美味しくなる気がする」
「ふ~む、これは美味じゃ。初めて食す料理なのに妙に舌に合う気がするのう」
「確かに、なぜか郷愁をかき立てる味わい……。これはそれがしが今まで食べた料理の中でも最も不思議な感じがする」
さすが数多の海外旅行者を虜にした料理、異世界でも猛威を振るいそうな気配である。もっともこの世界で寿司を再現するのはかなり難しいので、結局は好事家向けの料理になりそうだ。
ラーニ達の勧めでいっぱい作ったほうがいいということになり、結局不格好な寿司を大量生産することになったが、刺身が苦手なメンバーも「これなら食べられる」という太鼓判はもらえた。
フレイニルたちが作った料理も非常に美味く、『王家の礎』最終日前の夕食としては十分以上に満足できるものだった。
「後はデザートだよね! ソウシ、よろしく!」
ラーニはもう完全にアイスクリームの虜で、それ以外のデザートは要らないなどと宣言をするくらいになっている。他のメンバーの視線も熱いので、スフェーニアと共同でアイスを大量に作ることになる。
しかし毎日同じというのは、にわか料理人としては面白くない。そういえばデザートとするつもりで『アイテムボックス』には大量の果実が入っている。確か焼き菓子と、ダンジョン産のレアな蜜もあるし、生クリームも力技で作れる。とすれば俺も子どもの頃好きだったアレを作るしかない。
俺は『アイテムボックス』から大きめのグラスを取り出して並べた。
フレイニルやマリアネにも手伝ってもらって果実を切り分け、焼き菓子を細かく砕いたりして材料を準備する。そしてグラスに焼き菓子や果実やアイスクリームを層に分けて入れ、最後にクリームと蜜をかける。
「ソウシ、ちょっと何してるの?」
「ソウシさん、それは一体なんていうデザートなんだい?」
ラーニとドロツィッテが、俺が妙なことを始めたと思ってのぞきに来る。
「これはパフェっていって、アイスクリームを使った贅沢なデザートだな」
「へぇ~。わたしはアイスだけでいいんだけど……」
「いや、これはこれで美味しそうじゃないか。ソウシさんの作るものは王族だって食べられないからね。心していただかないと」
などと言っている間に完成し、全員で楽しくパフェを食べ始めた。
……のだが、なぜか食べ始めると全員が無口になり、結局食べ終わるまでほとんど会話がなかった。
しかも食べ終わってからもしばらく放心状態になっていて、ラーニがようやく口を開いたのは5分以上経ってからだった。
「……アイスクリームだけでいいって言ったのは無しにする。今度から毎日これ作ってねソウシ」
「それはわらわも完全に同意じゃ。このパフェなるものの前では、あらゆる甘味が色褪せてしまうからのう」
「アタシが酒も忘れて食っちまうのってのはタダごとじゃないよ。これはぜひブランデーっていう酒を垂らして味わってみたいねえ」
「これは素晴らしいものですわ。一度味わったら、帝国中の貴族は金に糸目をつけずに求めるようになるくらいのデザートです」
シズナ、カルマ、マリシエールが堰を切ったように話し始めると、皆もそれぞれかなり濃密な感想を述べてくれた。
「これは人を虜にしてしまう恐ろしい甘味ですね。エルフの里だと禁止されてもおかしくないくらいの食べ物です」
「うむ。『黄昏の眷族』の間で広まれば、これが元で争いが起きかねん。アイスクリーム製造機……すぐに作らねばならぬようだな」
「ゲシューラがそれを作ったらきっと凄まじい数の注文が入ると思うよ。それこそ人を集めて量産しないと間に合わないほどにね。しかしソウシさんは冒険者をやめても大事業家として勇名をとどろかせそうだね」
ドロツィッテが笑みを浮かべて見てくるが、俺は首を横に振ることしかできなかった。
しかしどの世界でも、甘味が人を魅了してしまうのは真理のようだ。




