24章 異界回廊 29
『王家の礎』地下41階は、広大な円形の野外フィールドだった。
周囲の森から多数出現した『ウルフオーガ』たちを全滅させると、地面の石畳の一部が円筒形にせり上がってきた。その円筒の側面に入口が開いていて、中に下りの階段が見える。
面白いギミックに感心しながら、地下47階へと下りる。
42階も41階とほぼ同じで、ウルフオーガの数が多少増えたくらいである。一国の軍すら容易に全滅させ得るほどのモンスターの大群も、俺たちには障害にはならない。
地下43階もフィールドは同じだが、出現するモンスターがランクアップし、狼男であるウルフオーガから、ツノの生えた熊男、『ベアオーガ』へと変化した。
身長は3メートル近く、もはや直立歩行する熊といった趣のモンスターで、その数は多少減って300匹くらいになったが、個々の戦闘力は格段に高そうだ。
しかしベアオーガはパワー型だったようで、動きが遅く、俺たちにとってはむしろウルフオーガより与しやすい相手だった。ただ、パワーで圧倒できない分、『精霊』のミスリル人形は多少苦戦をしたらしく1体が破壊されていた。もちろんシズナが新たに得た装備品『精霊女王の涙』の『精霊再生+3』の効果によってすぐに復活できていた。
ドロップした素材は同じくツノだが、こちらは整腸剤になるらしい。若い女性陣はいまいち反応が鈍かったが、中年男の俺には整腸剤の重要性はよくわかる。この世界、魔法やダンジョンのお宝のお陰で平均寿命はかなり長そうなので、効果次第では需要は大きいだろう。
地下44階もベアオーガ戦で問題なし。
ただし大群相手が続いたので、少しメンバーに疲れが見えた。
大休止を取って地下45階、今日の最終フロアへと進む。
やはり開放型のフィールドで、広さが少し増した感じである。円形の舞台の周囲は森ではなく、白い石でできた円柱がずらりと並び、いかにも特別な階だと主張している。
俺たちが前に進むと、背後にあった階段はいつの間にか消えている。
少し待つと、黒い靄がフィールドの中央に立ち上る。数は3体、それも靄の大きさからすると大きなモンスターではないようだ。
靄が消え、そこに残ったのは3匹のトカゲ男、リザードマンだった。
身長は3体とも2メートルくらい。ザコで出てきたウルフオーガよりも小さい。
しかしその存在感は遥かに大きい。気になるのは鱗の色で、中央の一匹は緋色で、他の2匹は白金色だ。鱗の光沢は完全に金属のそれなので、白金の方はオリハルコンということだろう。中央の緋色はわからないが、雰囲気からして上位の金属と思われた。
身体全体の凹凸が少なく、非常になめらかな曲線で構成されていて、筋肉質にも見えないが、それがかえって強者であると感じさせる。
はっきり言えば、特に中央の緋色のリザードマンはあの『黄昏の眷族』の王・レンドゥルムに勝るとも劣らない威圧感をまとっている。他の2匹もそれに近い力がありそうだ。明らかに今までに会ったことのない強さのボスである。
皆もそれを瞬時に悟ってか、真剣な表情で構えを取った。
ラーニやカルマが尻尾を太くするのはそうあることではない。
「ついに面白そうな奴が出て来たねえ。これは戦いがいがありそうだよ」
「あの『黄昏の眷族』のレンなんとかって奴くらいの強さがありそう。どうソウシ?」
「3匹ともそれくらいはありそうだ。特に真ん中の奴は強いな」
俺が答えると、誰かが喉をごくりと鳴らす音が聞こえた。
『鑑定』をしていたマリアネが、静かに結果を報告する。
「左右のものは『深きもの』、中央のものは『昏きもの』という名だそうです。能力は、それぞれブレスを吐くとだけ判明しています」
「どんなブレスかわかるか?」
「『プラズマブレス』だそうですが、初めて聞く名です」
「プラズマ……確か炎や雷などと関係していたもののはずだが、どんなものかは不明だな。一応超高温の炎、もしくは雷を想定しておこう。どちらにしろ威力は相当に高そうだ。絶対に食らわないようにしよう」
「わかりました」
ここで『プラズマ』なんて単語を聞くことになるとは思わなかった。もしかして、これも俺とライラノーラの相乗効果の表れなのだろうか。だとしたら少し怖い気もするな。
俺がふうと息を吐くと、ラーニが声をかけてくる。
「どうする? 真ん中のはソウシがやる?」
「俺がやろう。他の2匹は任せる。特に後衛の方へ行かせないように注意してくれ。『精霊』は後衛の足と守りに徹するほうがいいだろう」
「オーケー、任せて」
「了解したのじゃ」
俺の指示で、自然と前衛陣が左右に分かれる。ラーニ、サクラヒメ、カルマの組と、マリアネ、マリシエール、ライラノーラの組だ。
シズナの『精霊』すべてが獣型になり、後衛陣はそれに騎乗する。間違いなく動きの激しい戦いになるはずだ。
「フレイは『神の後光』と『神霊の猛り』を。後は補助に徹して欲しい」
「はいソウシさま」
「最初に俺が『圧潰波』で先制してみる。そのあと魔法で追撃して、それで大体の強さが分かるだろう」
「その程度では倒せないということですね」
スフェーニアが杖『ビフロスト』を構えつつ聞き返す。
「多分な。よし、始めるぞ」
俺が先頭、少し遅れて前衛陣が左右に並び、3匹のリザードマン、昏きものと深きものへと近づいていく。
直立していたリザードマンたちは、わずかに腰を落とし、鋭い鉤爪を持つ手を持ち上げて構えを取った。
「『神霊の猛り』、行きます!」
フレイニルが魔法を行使、生じた神の光が、俺たちの身体の奥から更なる力を引き出してくれる。
と、それを合図にしたように3匹のリザードマンが動いた。姿がブレて見えるほどの超高速の『疾駆』である。
一瞬で3匹は距離を詰め――るつもりだったのだろうが、俺の反応はそこまで鈍くない。
高レベルの『翻身』スキルによって瞬時にトップスピードに達する『万物を均すもの』は、すでに『圧潰波』をカウンターで放っていた。
放射状に広がる不可視の破壊が、3匹のリザードマンを正面から完全に捉える。瞬間響き渡る凄まじい金属音の三重奏。3匹のリザードマンは、3方向へ地面にほぼ水平に吹き飛んでいった。
「魔法撃て!」
吹き飛んだ時のリザードマンが、腕をクロスさせて『圧潰波』を受け止めていたのは見えた。ダメージゼロではないだろうが、あれ一発で倒せる相手では絶対にない。
スフェーニアたちが放った魔法は、左右に吹き飛んでいった深きものに突き刺さった。
いや、実際に当たったのは数発の炎の槍と、ドロツィッテの『レーザー』だけだ。吹き飛んだ深きものは、着地と同時に体勢を立て直して、その場から大きく飛びのいたのだ。
「『神の後光』!」
フレイニルの神属性魔法によって、広い空間に光が満ちる。3匹のリザードマンはその場でピクリと反応したが、直後にフレイニルが、
「効果はほとんどないようです!」
と伝えてきた。
「各自散開して攻撃!」
指示を出しながら、俺は中央の緋色のリザードマン・昏きものへと突っ込んでいった。
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peroshi氏のイラストもすさまじく充実しており、特にゲシューラの姿は一見の価値ありです。
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