24章 異界回廊 26
『王家の礎』地下35階のボスは、『エンペラークラーケン』という巨大タコ型モンスターだった。
頭部は全高20メートル、触手は8本どころではなく、少なく見ても30本はある。
戦闘準備を整えた俺たちに向かって、そのエンペラークラーケンがにじりよってくる。
巨体ゆえに遅く見えるが、実際は時速20キロくらいは出ているだろう。体重を考えれば、それだけで恐ろしいほどの脅威である。
普通なら絶望するほどの光景、しかしすでに巨大ドラゴンと何度も戦っている身として焦るほどのものではない。
俺は試しに『圧潰波』を手加減して放ってみた。不可視の衝撃は、突進してくるエンペラークラーケンの動きを止め、さらに押し返すほどであった。
「本気でやったら吹き飛ばせるな。ただ再生持ちだと一撃で倒すのは無理そうだ。」
エンペラクラーケンは表皮が強靭そうなわりに身体は軟体で、『圧潰波』だと効果が低そうだ。それだけ判断して、後は予定通り受けに回ることにする。他のメンバーに経験を積ませるのが最優先である。
再度突撃してきたエンペラークラーケンは、先ほどのお返しとばかり、触手を俺と『精霊』のミスリル人形の頭上に振り下ろしてした。大木のような吸盤付きの触手である。俺は『不動不倒の城壁』で受け止め、『精霊』も両腕を頭上でクロスして受け止めている。
普通ならそれだけで潰れてしまってもおかしくないのだが、俺はもちろん、身長3メートルを超える巨躯の『精霊』たちも、スキルの補助があって余裕で堪えている。
問題はその直後、俺の全身に強烈な衝撃が走ったことだ。それが触手の発する電気だったのだろう。ただ一瞬の強いショックの後は、なんとなく全身がわずかに痺れる感じがするのみで、それ以上のことはない。
身体にも力が入るので、俺は至近距離からメイスを触手に叩きつけた。高レベルの『翻身』スキルよって瞬時にトップスピードに乗る槌頭は、太い触手を破裂させ千切り取った。
「ソウシさん、魔法行きます!」
後方でスフェーニアが叫ぶと、四方から風属性魔法『エアカッター』が一斉に放たれた。
同時に『飛刃』スキルを使えるラーニ、カルマ、マリシエールが飛ぶ斬撃を撃ち出し、ライラノーラも『血槍』を三日月型の刃に変化させて飛ばしている。
それらの攻撃によって、エンペラークラーケンの触手が次々と切断されていった。完全に切り離された触手が消滅するのはダンジョンモンスターの特性だ。
普通のモンスターであればそれで決着がつくほどの攻撃だが、しかしそこはやはり強力な『再生』持ち、こちらの遠距離攻撃が途切れると、その隙に触手はすぐに再生して元通りになる。
だがそれは想定内だ。後は我慢比べ……と言いたいところだったが、エンペラークラーケンは自身の不利に気付いたらしい。後衛陣に攻撃をするつもりか、触手を動かし巨体を滑らせ始めた。
「おっと、そっちに行かせるつもりはないぞ」
俺は触手の根元を掴んで、その場に自分を固定した。6体の『精霊』たちも同じようにそれぞれ触手を掴んで踏ん張り始める。巨大モンスター相手に単純な力比べである。
体重差を考えれば勝負にならないはずが、高レベルの各種スキルが対等以上のやりとりを可能にする。
俺たちが抑えている間に、メンバーたちは次々と魔法やスキルを打ち込んで触手を切断し、エンペラークラーケンの『再生』スキルに負荷を与えていく。
『飛刃』スキルのないサクラヒメも薙刀のリーチを生かし、複数の刃を生み出す『幻刃』、連続攻撃で威力が上がる『舞踏』、そして分身する『繚乱』スキルを使って、まるでシュレッダーのように触手を細断し始めた。
その攻撃力は凄まじく、しかも細断することで『再生』スキルの負荷が上がるのか、エンペラークラーケンは露骨にその攻撃を嫌がり始めた。触手を伸ばしては慌てて引っ込めるような動作を繰り返し、俺の方に電撃を使う余裕もなくなってきている。
「遠くからだとまだるっこしいねえ!」
サクラヒメの奮闘を見て、カルマがしびれを切らしたように接近戦を始めた。大剣『獣王の大牙』を振り回すと、サクラヒメにも勝るスピードで太い触手をスパスパと切断していく。
「あ、わたしも!」
結局ラーニも、そしてマリシエールもそれに参加し始めると、エンペラークラーケンはいよいよ追い詰められてきた。
しかもそこで何発目かのマリアネの鏢が巨大な目玉に突き刺さると、エンペラークラーケンが痺れたように動きを止めた。どうやらマリアネの『状態異常付与』によって『麻痺』をしたようだ。
ここぞとばかりに攻勢を強める俺たち。俺自身も『精霊』たちも触手をぶちぶちと千切っていくと、明らかにエンペラークラーケンの再生力が弱まってきた。
「あと少しだ! 後衛は本体を攻撃!」
触手が再生されなくなってきたので、ここで一気に決めに入る。エンペラークラーケンとしてはいいところなしで不本意だろうが、物理特化のモンスター相手だとこういうことも起こり得る。
完全に止めとなる直前で『強奪』できる感覚があったので『強奪』を行う。その直後にエンペラークラーケンは消滅していった。
宝箱は、今回『王家の礎』に入って二度目の虹色の箱だった。
期待の視線の中シズナが宝箱を開くと、出てきたのは黒をベースとして紫の差し色が入った、ライダースーツとプロテクターを合わせたような全身防具だった。
「これってマリアネが前に着ていた防具に似てない?」
というラーニの感想は、そのまま俺も思ったことだった。
フレイニルとスフェーニアもうなずいていて、当のマリアネも「そうですね」と答えながら『鑑定』をしている。
「『絶えざる影』という防具です。『疾駆・瞬+3』『翻身+3』『隠密+3』『隠形+3』『跳躍+3』の効果があります」
「まさにマリアネ殿のための防具じゃのう。戦っている時のマリアネ殿の動きはまるで見ることができんのじゃが、それに一層磨きがかかりそうじゃ」
シズナの評価もその通りで、誰が言うともなくこの防具はマリアネのものとなる。普段表情が動くことが少ないマリアネだが、どことなく嬉しそうな顔を俺に向けてくる。
「色合いもマリアネに似合いそうだな。俺のスキルに感謝をしておこう」
「ありがとうございます。これでさらに強くなれそうです」
マリアネは一度力不足で上を諦めた経験があるので、普段の落ち着いた言動に似合わず強くなることにこだわりが強い。この強力な防具はそんなマリアネの力になってくれそうだ。
次に注目を集めたのは俺が『強奪』したものだ。
それは深い青をたたえた、大きな宝石の飾りがついたネックレスだった。一目見て強力なスキル効果がついているとわかるアクセサリーだ。
「『深海王の首飾り』というものです。『全属性+3』という効果があるそうです」
『全属性』というのは、攻撃にすべての魔法属性が付与されるという、非常に強力なものである。すでに『全属性+1』のアクセサリーを身に着けているサクラヒメの話だと、全属性といってもその時にもっとも適した属性が選ばれる形になるらしい。
まあともかく、霊体系アンデッドなど物理攻撃が効きづらいモンスターに有効なアクセサリーだ。
それだけに誰が着けるのかという話になるが、カルマが、
「ソウシさんが付けるのがいいんじゃないかい。最後決めるのはやっぱりソウシさんなんだしさ」
と言い、他のメンバーも賛同したので俺が着けることになった。
代わりに『水属性+3』の効果がついた『珊瑚のネックレス』が余ったのだが、それはマリシエールの手に渡った。マリシエールはネックレスを二つつけることになるが、それは問題ないらしい。
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