シナリオ4 供物
目の前の化け物を見ながら、俺はなんでこうなってしまったのかと記憶をさかのぼる。
始まりは、村へ来てから1泊した後。つまり、逃げてきて寝て起きた後のことだ。
村の人から分けてもらったもので朝食を両親が摂り、俺もいろいろと世話をしてもらっている時、村長だという1人の老人がやってきて、
「おぬしのところに、赤子がおったと思うんじゃが」
「え?あっ、はい!息子が1人」
「おぉ~。そうかそうか。どれ、見せてくれ………可愛いのぉ~。うん。非常にかわいい。で、相談なんじゃが、この子を智龍様の供物にしてもいいかの?」
《メインシナリオ『土地神への供物』が発生しました》
やってきて俺を見て可愛いと言った後の、急な供物発言である。これを聞いたときは一瞬どころかかなりの時間思考が止まった。まだこの段階では危険だとは判断されなかったのか『安全加速』で思考が加速されることもなく、正気を取り戻すまでには少し時間がかかってしまった。
さすがにそれはあり得ないだろと俺は思ったし、父親も拒否するだろうなんて考えたのだが、
「智龍様の…も、もちろんでございます!それが新人の役目という者でしょう!」
おいふざけんな父親!!
昨日はあんなに俺をかばって村から追放までされてくれたのに、急に供物の話になったら、いいよぉ~、だ。昨日のあの格好良さを返してほしい!
供物ってつまり、生贄ってことだよな?なぜそれをあっさり了承してしまうのか。
何かそういう洗脳系のスキルでも使われたのかと思ったのだが、もしかするとこの世界の宗教観の問題かもしれない。そう思うと、俺には少し自分の見てきたものが信用できなくなってきてしまった。
「では、その子供を抱えてついてきてくれるかの」
「分かりました!」
それから俺は父親に抱きかかえられ、供物として捧げられる場所に連れていかれる。道中ずっとどこかのタイミングで逃げてくれるのではないかと密かに期待していたのだが、残念ながらそんなことはなかった。
洞窟のようなところに置かれた俺は、そのまま大人たちに放置されていってしまう。
それでもどこかで父親が迎えに来るのではないかと心のどこかで思っていたのだが、
「ほぅ。これが此度の供物かのぅ」
先に別の迎が来てしまったようだった。
全身がうろこに覆われた体。長くねじ曲がった老獪さを感じさせられる角。何もかもをかみ砕き引きちぎりそうな大きな牙に、巨大な宝石のようなまがまがしさすら憶える瞳。そして、その巨体すら浮かせてしまうのではないかと思えるほど巨大な翼。
全身が恐怖で押しつぶされそうなほどの威圧感があるその存在は竜、というか、ドラゴンと呼んだ方が近いのかもしれない。
あまりにも生物としての格が違い過ぎて、俺にはどうやったところでこの状況をひっくりかえせる気がしなかった。
俺の物語はここで終了。第3部すらいかずに完!である。
………………というのはさすがに嫌なので、悪あがきはする。
「む?なんじゃ?おぬしのスキルか?」
俺のスキルの1つを使用した。少しでも俺が殺されにくくするために。
それは強烈な毒………………ではなく、
「おぉ!力がみなぎるのじゃ‼」
強化だ。
ドラゴンに土属性強化を使ったのだ。どの程度効果があるのかは分からないが、反応を見る限り効果は実感されているみたいだな。
自身を強化してくれる存在は、だれしもほしいものではないだろうか?それはこのドラゴンだって同じことのはず、俺が土属性強化を仕える優秀な人材だと認識してくれれば、命を奪うのは惜しいと思ってくれるかもしれない!
「よし!これで吸収効率が良くなったのじゃ!いつもより多く吸えるのぅ‼」
ダメだったあああああぁぁぁ!!!!!
吸うとか言ってるし!絶対吸われたらマズいものを吸うつもりだよな⁉血とか魂とかHP吸われる奴だろ………。
マズいマズいマズい。非常にマズい!もっと俺のスキルに希少価値を、
「それじゃあおいしくいただくのじゃ」
いやああぁぁぁぁ!!!!!???????吸われるぅぅぅぅ!!!!!!!!
「おっ。随分と量もあるのぅ。今回は当たりじゃな」
嘘だろ⁉俺そんなに多いんですか⁉長く吸われ続けちゃうんですかあああぁぁぁぁ!!!!!!!?????
あぁ。今世はずいぶんと短かったな。前世の方が随分と長生きした。10倍、いや、下手したら100以上長く生きたぞ。
それが今世では1歳にも満たない内に命を落とすことになるなんて。なんて異世界とは苦しい場所なんだ……。
「ふぅ。満足じゃ」
あっ。ドラゴンも食べ終わったっぽいな。これで俺は完全に………………あれ?
生きてる?なんで?え?気づいてないわけじゃないよな?俺が生きてるのは気づいてるんだよな⁉なんでそんなこれで終わりですみたいな雰囲気だしてんの⁉訳が分からないんだが!
《メインシナリオ『土地神への供物』を達成しました》
《シナリオ達成ボーナスが与えられます》