シナリオ3 逃走
木の根に足を引っかけ。前のめりに体が倒れていく母親。
さすがに目立つから問題ないだろうと考えていたが、母親は疲労感からか見逃したらしい、俺の目の前でゆっくりとその光景が流れていき、
「あうぅ~」
「あ、危ないな!気を付けろ!!」
「ご、ごめぇん………」
土魔法で無理やり引っかかった部分を浮かせることで転倒を回避。ギリギリで間に合った。
本当に今のはスローモーションになってくれたおかげだな。走馬灯とかそういうタイプのものではなく、『安全加速』というスキルの効果だ。これは周囲で危険なことが起こる時に俺の思考速度を上昇させてくれるスキルであり、ありがたいことに危険が迫る対象が俺でなくても良いという優秀なものとなっている。
とはいっても産まれてきてからこのスキルが発動したのなんか数回しかなかったけどな。条件はかなり緩いようなのだが、まずそうそう危険が起こることがない。
ちなみに今までのスキルが発動した理由も母親が転げそうになったからだったりするのだが、俺の母親ってドジッ子属性を持っていたりするのだろうか………不思議だ。
などとぼぉっと考えている時だった。
ヒュッ!
「びゃっ⁉」
変な声が出た。
「なっ⁉ヴェン⁉」
「い、今、私たちには当たらないから多分ヴェンを狙って………」
「なんてことを!あいつらの狙いはヴェンじゃないのか!」
両親は障壁があるから矢を放っても意味がない。ということで、狙いを俺に変えたようだ。
今の矢はかなり顔の近くを飛んだが、本来の狙いは手足や腹部だったのだと思う。そこで大けがをして命を落としそうになっているところに、回復してやるから従えと言ったようなことを言うのが予想できるな。
完全に俺が狙われるのは予想外だったため、正直気が抜けてたな。ここで当たらなったのはシナリオのスキルの影響なのか……まあなんでもいい。次は油断しない。
と意気込んだものの、結局危うくなったのはそれくらいで、
「ハァハァハァッ!つ、着いた!」
「つい、ゲホゲホッ!……ついた、んだね」
目的地に着いた……らしい。目的地は村なのだが、追放された村とは少し雰囲気が違う。
かなり身体への疲労が激しかったらしく、父親は息も絶え絶え、母親は咳までして。それでも到着を喜び、安堵の表情を浮かべている。
そんな2人に、
「お?どうした」
村の住民だろうか。武装をした大柄な男性が話しかけてくる。まあ、息も絶え絶えな人間が自分たちの近くにいたら心配するし警戒もするよな。
両親は事情を簡単に説明し、
「あぁ~。盗賊に襲われた時の身代わりでもめて、か。真偽はともかく余所の村にいられなくなったっていうなら仕方ねぇ。受け入れてやるよ」
「「ありがとうございます‼」」
どうやら受け入れてもらえるらしい。両親は深く頭を下げている。
村でもめて追放された奴らなんか受け入れたくないと思うのだが、受け入れてくれるのは何か事情があるのかもしれない。
少し疑問に思うところもあるが、とりあえず注意深く警戒しつつ父親の腕の中でおとなしくしておく。
「最近新しい奴は少なくなってきたから確認してないが……あぁ、まだ家の空きがあるな。あの家とか使ってくれ」
指をさした先には、1軒のぼろ家。とは言っても、今まで俺たちが住んでいたものより少し汚いくらいだ。掃除と修繕をすれば今まで以上のものになりそうではある。
「家までいただけるんですか!?ありがとうございます!!」
両親はずっと頭を下げへこへこしてるな。いろいろと親切にしてもらってるようだし当たり前ではあるのだが。
その後家の簡単な掃除をしてもらったり、他の村人にご飯を分けてもらったり。明日は仕事がどうこうみたいな話をされた後俺という乳児がいるということで専用の道具までいろいろと渡されて、
「至れりつくせり、何から何まで本当にありがとうございます!」
という状態だった。
マジでこの村、良い村である。なんで両親がここに引っ越してこなかったのか不思議なくらいだ。この村ではもめたくないし、できれば俺がいる間に問題が起きてつぶれてしまうなんて言うことがないようにしたいな。
俺はそんなことを思いつつ、眠りについた。
《メインシナリオ『追放からの逃走劇』を達成しました》
《シナリオ達成ボーナスが与えられます》
さて、生まれてくるときや村でもめてた時にも聞いたアナウンスが流れたが、いったんこれは置いておこう。
それよりも、だ。
やはりこの村、問題がありやがった。ただ良い村なだけじゃなかったんだよ。すべてはこのための罠だったんだ。
………どういうことかって?
簡単な話だ。巨大な人ではない、というか人とはかけ離れた化け物のような見た目の生物の前に、俺という赤子が1人放置されている状況から考えてほしい。
これはつまり、
「ほぅ。これが此度の供物かのぅ」
俺は恐ろしい何かへの供物となっているということだ。




