エピローグ 広い世界へ
例の娘を送り届けた後は、俺の住む村へ保護した中で帰り場所がなかった者達を送り届けて村長に事情を説明し、それからまた智龍ちゃんに乗せてもらって盗賊のアジトへ。
攫われていた人たちの開放を急いだため眠らせた盗賊などは適当に地面に埋めてあり、全員首から上だけが出ている状態になっていた。
智龍ちゃんの監督の下それらと1対1で戦っていき、全て剣の錆にさせてもらう。例のシナリオ持ちな盗賊から奪った剣のおかげで命を奪えば俺の持っていないスキルを奪えるということもあり、かなり強化させてもらったな。
が、贅沢な感想ではあるのかもしれないが。
「………あまり人を斬るというのも気分が良い物ではありませんね」
「そうか。ヴェンは優しいからのぅ」
「そうでしょうか?私が優しいのは、私が好きな相手にだけですよ」
「ほ~。例えば?」
「例えば、ですか?……そうですね。例えば、智龍様とか?」
「………お、おぅ」
ん?なんか誤解されている気がするな。
「じゃ、じゃあ、帰るのじゃ!もう遅いしのぅ!」
「えっ?あっ、ちょっ!?私まだちゃんと体勢が、アアアアアアァァァァァァ!!!!??????」
誤解を解こうとする前に、智龍ちゃんが飛び立ってしまった。恥ずかしさがあったりしたのだろうが、本当に勘弁してほしいな。俺、この日1番命の危険を感じたぞ。
「………………すまんのじゃ。本当にすまんかったのじゃ」
「い、いえ、智龍様の気晴らしになったのなら、何よりで………」(バタッ)
「ヴェ、ヴェ~ン!しっかりするのじゃああああぁぁぁぁ!!!!!!」
その日、とても申し訳なさそうにしながら俺を村まで送り届ける智龍ちゃんがいたという。
………智龍ちゃんのそんな姿も見たかった。もう少し力をつけてギリギリ気絶はしない程度にならないとな。
「ヴェン。しっかり今日は休むんだぞ?」
「はい。分かりました」
次の日。俺は両親に外出禁止を命じられ、安静に家の中で過ごすことを約束させられた。
いくら智龍ちゃんについて行ったからとはいえ、気絶までされると困るし心配になったのだろう。
いつものように子供たちの相手ができないので仕方なくモノづくりなどをしていたら、
「あっ。見つけた!」
「ん?………ああ。昨日の方々ですか」
盗賊のアジトで助けた人たちが俺の家までやってきた。何でもお礼を言おうとしていたが帰ったときには気絶をしていたので、改めて今日来たということらしい。
暫くその人たちと話をしていたら時間を潰せたし、良い時間だった。もちろん、全員に智龍ちゃんの話も聞かせたぞ。助けられた経験もあるから、かなりの信心深い智龍ちゃん信者が作れた。
「ふふっ。じゃあ、智龍様のためにも頑張らないとね!」
「これからお手伝いできることも聞きに行く予定だから、智龍様を守れるくらい強い村を作ってみせるよ!!」
「ええ。一緒に頑張りましょう」
話をしていくうちに向こうの口調は砕けていき、かなり仲良くなれたと思う。
村のためになるよう頑張ると意気込み去っていく彼女たちに、俺は手を振った。そしてまた黙々と作業に取り組んでいく。
「これまで、色々とあったな………」
淡々と作業していると、これまでのことが思い起こされた。
赤子の時からすでにシナリオの影響が出始めて、この村に来てからしばらくは安泰。しかし、貴族がやってくるなどしてさらに状況は変化し、戦争まで起こるのではないかと思えるほどひっ迫した事態になったこともあった。そして今回、初めてシナリオ持ちと戦い、シナリオの強さというのを感じた。
俺のシナリオがある限り、きっとこれからもまたシナリオ持ちと出会い、時に争うことになるのだろう。どこまでも物語のようなひどい展開が起きるし巻き込まれる。
だがそれでも俺がここまで頑張ってこれたのは、智龍ちゃんがいたからこそだ。どうしたって安定して1つの土地でスローライフを送るなんて無理で諦めていた俺に、智龍ちゃんは希望をみせてくれた。
まあ、色々と振り回されることはあるし、
「……智龍を恨んで張らんのか?」
「恨む?そんなことはあり得ないな。智龍ちゃんはどこまでも優しくしてくれて、頑張ってくれているだろ」
「智龍、ちゃん?………では、どんな風に思っておるのじゃ?」
「どんなふうに?まあ、俺の人生に必要不可欠な存在だよな。それに可愛いところも多いから、癒しにもなる。頑張り屋なところも優しいところもちょっとドジなところも。かわいいだろ?」
「っ!?」
息をのむ声が聞こえる。
「………………ん。って、ちょっと待て、俺は今何を?」
いつの間にか今世で1度も人前に出していないはずの素の俺のしゃべり方と本心を口にした。いくら淡々と作業する中で注意力が散漫になっていたとしても、こんなミスを起こすはずがない。
すぐに俺が振り返ると、そこには中学生くらいの身長の少女が顔を赤くして立っていた。
「誰、ですか?」
「な、何でもないのじゃあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
俺が誰なのか尋ねると、少女は赤い顔を両手で隠して走り去っていってしまった。
その速度は異常なほど早く、追いかけようとしたときにはすでに視界から消えている。それに感知系統のスキルにも一切引っかからず、まるでその存在は幻だったかのようだった。
「何だったんだ………」
俺は疲れているのかと首を振る。
彼女の口調は聞き覚えのあるものだったが声が明らかに違うし、何とも不思議だった。
しばらく俺の心の根幹部分を引き出した存在として警戒していたのだが、それ以降その姿を見ることなく長い時が過ぎていく。
そして数年後、
「ヴェン。お主、今日で成人じゃったか?」
「はい。智龍様のご加護のおかげで、ここまで無事成長することができました。引き続き智龍様にお仕えさせていただきたく思っております」
「ふむ。ヴェン、お主、妾のことは好きか?」
「え?ええ。好き、ですが?」
「っ!?そ、そうか。まだそうじゃったか………」
智龍ちゃんがつぶやく声が聞こえるが、俺にはその意味がよく分からず首をかしげる。
だがすぐに智龍ちゃんが俺を見据えたことでまた俺は智龍ちゃんの言葉を待つ体勢に入り。
「ヴェン。お主をここから追放するのじゃ」
「………………………」
《メインシナリオ『外の世界へ』が発生しました》
「………………………………………は?」
どうやら俺のシナリオは、まだまだ俺のスローライフを邪魔しに来るようだ。
ということでここで完結とさせていただきます。
1月とちょっとの間でしたが、お付き合いいただいた読者の皆様には感謝を。
これ以降の私の活動としましては、
「VRゲームで攻略などせずに勉強だけしてたら伝説になった」
の連載。
そして時間ができ次第他にもまだ書くだけ書いて公開していない作品がありますのでそちらを投稿していく予定です。
ご興味ありましたら目を通していただければ幸いです。
それではまたどこかでお会いできることを願いまして、失礼いたします。




