シナリオ36 実力差
「さて、種が分かったとのことですが、それをどう対処されるのかお見せいただけますかね?」
「ふんっ!格下の癖にイキりやがって。この程度………俺様が転移すれば一瞬なんだよ!!」
転移、というワードが聞こえた。
直後、数枚の壁を通り抜けたかのようにして盗賊が移動する。その間に合った壁には一切傷などもついていない。本当に、短距離ではあるが転移したということなのだろう。
「ふむ。壁を無視して動けるのは良いですね」
「だろぉ?これで移動して、テメェの首もすぐにとってやるよ!!」
そんな言葉と共に繰り返される短距離の転移。壁など意味はないと言わんばかりに壁と壁の隙間へ転移しては消えてを繰り返す。
このままでは用意した壁が何の意味もなく終わるな。
………が、
「まだこちらも仕込んでますよ」
「っ!?マジかよ!!」
盗賊の驚く声が聞こえてくる。その足元には、ぱっくりと大きな穴が開いていた。
「魔法を無効化できても、それによって起こされる副次的な効果までは無効化できない、あなたも無敵ではないわけですね」
「だからどうしたっ!この程度の穴、」
この程度の穴。と盗賊は言う。確かに穴だけであればこの程度という表現ができるだろう。
だがな。俺が求めたのはその穴ではないんだよ。
その穴に落ちて生まれる隙に、
「さぁ。生き埋めになってください」
穴をあけるために魔法でどけていた土。それを、元の位置に戻す。それはまるで、盗賊を穴に埋めるかのように。
「テメ、グボッ!?」
何か言おうとするが。その口を土がふさぐ。いくら剣を元気に振り回そうと、魔法によって生まれたわけではないその土は、魔法を吸収する剣であっても消すことなど不可能。
「生き埋めになってくださいね」
恐らく聞こえていないだろうが、俺はそんな言葉を発して動く。
そう、まだ動くのだ。
生き埋めにこそしたものの、俺が感じた実力を持つほどの相手であればここまでやってもまだ這い上がってくる。だからこそ、まだ俺は動かなければならない。
確実に勝つために。
「………………アァァァァ!!!!!クソッ!まだ口の中に土が入ってやがる!」
盗賊の復帰は早かった。まだ生き埋めにしてから10秒も経っていない段階で、地上にまで転移してくる。
その実力の高さに俺は不安を覚えるが、それでも準備はした。
後は、
「ん?あいつ、どこに」
俺の姿を見失い辺りを見回す盗賊。その首に、
「はっ!」
剣を当てるだけ。
そうすれば、首が飛び。盗賊の命は奪い取れる。
………なんて、考えていたんだが、甘かった。
「いってぇな」
「っ!?これで斬れないんですか!?」
「当たり前だろ?いてぇけど、テメェとはレベルがちげぇんだよ。斬れるわけがない」
傷はついた。だがしかしそれだけだった。
わざわざ盗賊を埋めて智龍ちゃんに封印を施した敵が持ってた隠密用の装備まで奪って仕掛けたというのに。ここまでいろいろ仕掛けても、俺が出せる結果はこの程度か。
「これが、実力の差ってやつなんだよぉぉ!!!」
「ガハッ!?」
腹部へ感じる痛み。直後、俺の体は後方へ吹き飛び全身から悲鳴が上がる。
当てつけかのように俺が吹き飛ばされた場所は。
「ヴェン………逃げよと言ったじゃろうに」
封印され動けない智龍ちゃんがいる場所だった。
というか、吹き飛ばされた先にいたのが智龍ちゃんであり、俺は智龍ちゃんに衝突したわけである。
………ごめんね智龍ちゃん。絶対痛かったよな。
「智龍様を置いて逃げるわけにはいきませんよ………私は、智龍様の生贄なんですから」
「妾より自分のことを心配せい。ここで妾だけが残る方が、お主も一緒に命を落とすよりは何倍もマシじゃ。おぬしは、命を無駄にしてしまうことになるのじゃぞ」
智龍ちゃんは今からでも俺を逃がしたいみたいだな。その優しさに惚れ直したぜ。
だが、推しの言葉だからと言って素直に従うわけにもいかないよな。
「やってみなければ分からないじゃないですか。かなりダメージは智龍様が与えているんです。万全ならまだしも弱っているあの敵なら、私だって倒せるかもしれないじゃないですか」
「吹き飛ばされておいて言えるセリフじゃないじゃろ。いいから逃げるんじゃ」
「逃げませんよ。智龍様を置いて逃げるなんて、絶対にできません」
もちろん嘘だ。
本当にマズいなら智龍ちゃんを盾にして、そして囮にして逃げさせてもらうつもりではある。
だが、できれば智龍ちゃんを失いたくないという気持ちはあるのだ。これから先のスローライフに、智龍ちゃんは必ず役立ってくれるからな。
智龍ちゃんが俺を止めようとして、俺がそれを断る。そんなやり取りを繰り返す中、
「クハハハッ!仲がいいことで。ガキも見捨てればいいのによぉ………まあ、そんなにそのドラゴンが好きなら、一緒に地獄に送ってやるよぉ!!」
俺たちのやり取りをどこか馬鹿にするように、盗賊が歩いてくる。どうやら本気で攻撃してくるつもりのようで、何かオーラのようなものを盗賊は纏っているな。
持っている剣を俺たちに向け、俺を貫いて智龍ちゃんいまで刃を届かせるような突きを放とうとしているのが分かる。
「それじゃあ、来世でも仲良くやるんだな」
一瞬で盗賊は距離を詰めてきた。その件は後1秒もない間に俺へと届きそうな距離まで来ている。ここで何もしなければ確実に終わる。
だが、逆にここから俺が何かしてもすべて無駄になりそうなほどに盗賊の攻撃は強い。
ゆっくりと軒先という名の終わりが近づき、盗賊の口角が引き上げられるのが分かる。あの表情は勝利を確信し、この後起こる俺たちの悲劇を喜劇として楽しもうとしているのであろう表情だ。
俺の力ではもうどうしようもない。智龍ちゃんも動ければいいのだが、封印されていてそれは不可能。
だからもう、
「智龍様。失礼しますね」
「ん?」
俺は最後の時まで愛し合う恋人のように智龍ちゃんへ触れた。
直後、人生は終わりを迎えたのだ。
「あ、あぐぅ。な、なんで、ドラゴン、が」




