シナリオ29 暗殺
時は数か月前、智龍ちゃんが襲われた日の夜にまでさかのぼる。
「はぁはぁはぁ………」
「男爵様。もう少しで森は抜けられます。そこまでいけば一息付けますので」
走る男爵と、それを守り励ます護衛たち。彼らは特殊な薬を使っているようで、近くに魔物が酔って気づくなっていた。だからこそ、油断さえしなければ目的通り村を囲うようにして存在する森を抜けることはできるのだ。
その様子を、俺は上から見下ろしていた。
「………逃げられるとでも思っているのか?」
誰にも聞かれてもいないし見られてもいない状況であったため、俺は素の口調で1人つぶやく。
俺自身、実は探知系のスキルよりも隠密系のスキルが得意だったりするのだ。そのため、数人しかいない彼らの後を気づかれずについていくことなど容易。
ちなみにどうやって彼らに追いついたのかと言えば、最初から男爵には発信機のようなものをつけておいたのだ。発信機とはいってもスキルの効果だったりするのだが、それを使えばだいたいの方角と距離は分かる。
そしたら後はここまでシナリオを達成してきて上がった身体能力を存分に発揮するだけで追いつけた。さすがに計画はいかに完璧でも、男爵の速度はそこまで上がらなったようだ。逃げる時だけは特殊なアイテムで速度を上げていたようだが、通常だと太った中年のおっちゃんだからな。速く走れる足も長く走れる体力もあるわけがない。
「さて、出口も近いならそろそろ良いか」
森から男爵たちが抜けるというタイミングであり、ここまでくれば安全というところ。
そこで俺は、
「気づかないだろうなぁ。森を抜けた先にレイスがいるなんて」
レイス、という魔物がこの世界には存在する。いわゆる幽霊みたいなものだな。
物理攻撃に耐性を持ち、というか物理的な肉体を持たず、魔法などでないと倒すことはできないとされている。見た目は半透明で、主に精神面を破壊するような凶悪な攻撃を行なうのが特徴だ。
さて、考えてみてほしい。薄暗かった森から抜け出し、緊張が抜けたタイミング。そこで、あまり音も出さない半透明の存在に気付けるかどうか。
もしかすると気付ける者もいるのかもしれないが、
「ん?ギャアアアアァァァァァ!!!!?????」
「ウガアアアァァァァァ!!!?????????」
「グワアアアアアァァァァ!!!!????」
彼らは気づかなかった。レイスにより精神を攻撃され、絶叫を上げている。
今回男爵を護衛していた面々はこの魔物が巣食う森を抜けるということもあり、単純に移動速度が速く物理的な防御力が高くて方向感覚を失いにくい者たちが選ばれていたようで、精神的な防御力は低かった。おかげであっさりと護衛も男爵も精神を崩壊させ、恐怖にゆがんだ表情のまま息を引き取っていく。
「素晴らしい。完璧な仕事だ………それじゃあ助かったが、ここでお別れだな」
俺は近づきしっかりと全員の心臓が止まっていることを確認してから、集めておいたレイス達を消し飛ばす。
レイスを集めるのはそこまで難しいことでもなかったため、あまりもったいないといった感情が生まれることはないな。男爵を片づけるのを手伝ってくれたという側面もあるので罪悪感がないこともないが。
「レイスも消したし、あとはこいつらの身ぐるみを剥いで適当に森の中に放り込んでおけばいいか」
さて、ここまでレイスを集めてレイスで精神を壊して男爵たちの命を奪ったわけだが、わざわざここまで手間をかけたのには当然理由がある。
その1つが、彼らの装備品が欲しかったからだ。きっと貴族やその護衛をする者達、それに加えて智龍ちゃんを傷つけようとする者達の装備だから、良い物であることは間違いないと思うのだ。
もしかすると物理攻撃をしたときに壊れてしまうかもしれないので、肉体を傷つけず精神を壊して倒す必要があったわけだ。
「おっ。このマントとかすごいな。『隠密2』の効果付きか。それに『認識阻害』までついてやがる。あっ、こっちの指輪は『魔力回復4』じゃねぇか。良い物持ってんな」
俺の予想通り、男爵たちは良い装備を持っていた。あの小さな村では絶対に見ることなどできないような装備ばかりだ。
そんな装備を1つ1つ丁寧に確認してしまっていく。しばらくは倉庫の奥底に隠すことになるが、闇魔法のレベルが上がって収納系の魔法が使えるようになったらそちらに移すつもりだ。
「よし。あとは〇体処理だが………全裸で森の中に放っておけば勝手に食われるだろ」
〇体処理。それを行わいないと、もし発見されてしまった時に計画の崩壊が相手側にばれてしまう。俺としてはできればそこを避けておきたいのだ。
あまりにも早く計画が破綻すると、誰が敵なのかはっきりとは分からなくなってしまう可能性がるからな。
行方不明程度にしておくのが良いだろう。
……で、ここでなぜ自分で焼いたりしてしまわないのかと思うかもしれない。その理由が、俺が直接手を下さずにレイスを使った理由の1つともかかわってくる。
何かというと、それはこの世界における『罪』という存在。
実はこの世界にはシステム的に定められた罪というものが存在している。そして、その中の1つが人の命を奪うこと。
「バレなきゃ犯罪じゃないってのが通用しないのはつらいよなぁ」
一応例外として、自分の命が相手に脅かされている場合や相手が言って以上の罪を持った罪人である場合は罪とならない。
というか、最悪罪になったとしてもそこまで問題はないのだ。何か罪があるというのが目に見えて分かるわけではないので。
ただ、一定以上の治安がある大きめの町とか、特に国の首都とかだと、入るためには罪があるかどうかというのを確かめられるらしい。今のところこの村から出るつもりはないもののいつ何があるか分からないし、できるだけ罪人にはなっておきたくないというのが俺の思いだ。
「よし。これで全員分処理はできるな。さっさと帰るとしよう」
数十分かけて全員運び、あとの処理を魔物に任せることにする。
もしかしたら心臓は止まっていても生きている者がいる可能性がないわけではないし、最後まで気は抜かずにいたいからな。
まあ、こういう風にして実は智龍ちゃんが攻撃された日にはすでに男爵はこの世から消えていたのだ。




