シナリオ2 追放
「早く渡せぇ!」
「誰が渡すか!たとえ村長であっても息子を渡したりなどしない!」
「ふざけるな!俺の娘の命がかかってるんだぞ!」
「だからと言って俺の息子が代わりになる必要はないだろ!命の価値は平等だ!」
「何を言ってる!村長の俺と小作農のお前、立場の違いはしっかりと存在している。子供にもその立場の差があるのは当たり前だろ!」
言い争う声。主に言葉を発しているのは2人で、1人が俺の父親でもう1人がこの村の村長である。
状況を説明すると、盗賊がこの村を襲撃。どうにか戦って守っているものの、村長の娘がさらわれてしまう。
で、村長の娘を開放する代わりに男児を誰か1人差し出せと言ってきたらしい。将来奴隷のような扱いにして肉体労働などをさせるのに、男の方が筋肉などが付きやすく都合がいいらしい。
そんな理由で男児が探されたわけだが、目をつけられたのがこの村で1番最年少の男児である俺だった。村長は俺の父親に差し出すよう要求しているわけだが、父親はそれを拒否。
その結果言い争いの末、
「お前たちをこの村から追放する!」
「なっ⁉………………分かった。良いだろう。こんな村出て行ってやる‼」
俺たち家族は村から出ることになってしまった。
なんか追放というワードは最近流行っていた気がするので、もしかすると物語の登場人物として追放されるというのは意外と一般的なことなのかもしれない。
《メインシナリオ『追放からの逃走劇』が発生しました》
まあ、それをされる俺としてはたまったものではないが。
「……すまん」
「いいよ、仕方ない。私だって、ヴェンを盗賊なんかに差し出したくないからね」
追放後、父親は母親へ謝罪の言葉を述べる。それに対し、母親は気にするなと首を振った。
だが、正直今はそんな会話をするのさえ命とりな状況だ。何せ追放されて村から出たといっても、
「待ちやがれぇぇ‼」
「テメェら、○○○○して、○○○○○○してやるよぉぉ!!!」
盗賊たちはいる。村とは違って守ってくれるような存在もいないため、俺たちはひたすら逃げるしかない。
幸いなのは敵が少ないことではあるな。村へ攻撃するメンバーもいるためこちらを追ってくるのは5人くらいだ。それでも十分俺たち3人に対しては多いと思うのだが、
「ぐっ!面倒くせぇ!」
「この辺地面がぬかるんでやがるな……」
まあ、俺の魔法があればどうにか時間稼ぎはできる。
俺たちが走る地面は若干平らにして固くして乾燥させて走りやすく、逆に盗賊側はぬかるませて柔らかくして凸凹にして走りにくく。ひたすら地面に調整を加えていく。
途中からは無傷で捕まえようとしていたのから飛び道具を使うように変更してきたのだが、
「『障壁』があってよかった」
「本当だねぇ。おかげで飛び道具だけならどうにかなるよ」
障壁という名のスキル、だと思われるもの。それを両親が使用して飛び道具は防いでいる。
正直めちゃくちゃうらやましいスキルだな。俺も欲しかった。きっと転生前に選べた候補の中にもあったと思うのだが、農業系スキルを探すのに必死で見逃していたのだろう。悔しい。
俺は後悔しつつ盗賊の妨害と家族たちの補助をするのだが、ここでさらなる困難が襲い掛かる。
それが、
「キャンキャンキャンッ!」
「ワフッ!」
「ワオオオオオオオォォォォォンッ‼」
犬のような鳴き声。だが、そんなかわいらしい存在とは明確に違うところがある。
声の主は、
「あの目の色と数、ダークドッグ⁉」
「くっ!さすがにこの地域は危険か!」
鋭い牙、毒々しい色の毛皮、人の体など簡単に切り裂いてしまいそうな爪。赤紫色の3つの目を持った魔物、名前をダークドッグというらしい。
俺たちが移動しているこの周辺は何でも危険な地域らしく、危険な魔物なんていう存在もうじゃうじゃいるらしい。通常であれば絶対に近寄らないような場所だな。
が、今回は逃げる先の目的地がここを抜けないといけないらしく仕方ないというのもあるし、
「ぐぁ⁉」
「く、くそ!魔物が出てきやがった!邪魔くせぇ‼」
うまくやれば魔物と盗賊を争わせて盗賊との距離を開くこともできる。
俺はいったん盗賊たちの妨害をやめ、魔物の足止めを行う。とはいってもそれをするのはこちらへ来ようとしていたものだけで、盗賊たちに向かって行く魔物は余裕がある場合逆に支援したりもした。
結果として、
「ハァハァハァッ!か、かなり距離を稼げたな」
「そ、そう、だね!」
息も絶え絶えな両親であっても十分問題ない程度には、盗賊たちと距離を離すことができた。盗賊たちは足止めを食らっただけでなく、そこでさらにほかの魔物まで途中から集まってきて大惨事になっていた。同情はしないが、なかなかに悲惨だったな。
「ハァハァハァッ!」
「頑張れ!もう少しだ!」
ここまでずっと走り続けてきたためか、母親の速度がかなり落ちてきている。当然父親の方もそれに合わせるためペースダウン。
さすがにこの程度の速度では魔物から逃げるのは俺の妨害があってもほぼ不可能と言って良い。
だからこそ慎重に行ってほしいのだが、
「あっ!」
俺の魔法ではどうしようもできなかった障害物。それが、大きな木の根。
さすがに大きく目立っているし問題はないだろうと油断していたのだが、それに母親が足をかけてしまった。ゆっくりと倒れていく体がスローモーションのように俺の目に移り、