シナリオ11 本物の騎士
「では、はじめ!」
始まりの合図が告げられる。
それと同時に俺は気合のこもっためちゃくちゃ気迫ある感じで、
「えぇ~い」
近づいて行った。
………………ごめん。嘘だ。気合も気迫も全くないと言って良い。
ただ、警戒されずに接近するにはこれが1番だったんだ。向こうも初手は譲ってくれるのは予想できたし、俺も2歳児だからこそ見た目でだませる。
ちょっと気の抜けた感じの接近であれば向こうもそれなりの心構えと対応をしてくれるはずであり、
「なっ⁉下に!」
そこが隙になる。
俺は相手の枝がぎりぎり当たるか当たらないかといった距離で姿勢を低くし、俺に枝を当てるには多少かがまなければならないほどの距離感を作る。
このまま俺は相手の足元にまで先ほどとは違い本気で駆け寄り、
「っ!油断しましたか!」
「ええ。予想通りですよ」
慌てて振り下ろされる枝。しかし、それを俺は左手のトンファーで防ぎつつ、体をひねりながら右手で殴りに行くような動作で爺を狙う。
まあ、しかし相手もいっぱしの騎士でありそれ相応の技術力はあるため。瞬時に距離を取られた。
俺のこぶし2つ分ほど開けられた距離は、俺の攻撃をかわすのには十分な距離であった。
………普通であればな。
しかし、こちらはトンファーだ。回転させれば一瞬でリーチは伸び、
カンッ!
「………………私の負け、のようですな」
俺のトンファーが爺のひざに軽く当たる。
やはり膝にも何か仕込んでいるようでただ膝に当たった音とは思えないような音が響くが、俺はあえてそれを無視し、
「ふふっ。お相手頂きありがとうございました」
頭を下げる。
そうしながらちらっと横目で審判を務めていたフルールの顔を見てみれば、呆然とした様子で固まっていた。この爺とかいう騎士が負けるとは思っていなかったのだろう。
俺もここまで演技して一発勝負でなければ勝てるとは思えなったし、気持ちはよく分かる。
ただ、それでも必要だったんだ。
《サブシナリオ『本物の騎士』を達成しました》
《シナリオ達成ボーナスが与えられます》
このサブシナリオがあったからな!
まあ、こういうシナリオの場合負けても達成扱いにはなるんだろうが、俺の経験上同じシナリオでも終わり方によって得られる報酬が違うんだ。
子供たちとの模擬戦でも勝てば攻撃力がアップするが引き分けたときなんかは体力が少し上がったりするからな。
だからこそ普通に戦ってもよかったんだ。が、これもまた経験上できる確率が低かったり苦労が必要だったりする達成の仕方程得られる報酬が良い。
そんな理由もあって勝ちたかったんだ。今回も、確認したところ『暗殺術』とかいうちょっと物騒でありながらも使えそうなスキルが手に入ったからな。やってよかった。
「いやぁ~。見事にしてやられましたなぁ」
爺が油断したと頭を書きながら近寄ってくる。
「ふふふっ。これでも智龍様の供物として、そう簡単には負けられませんので」
「ん?智龍様の供物として、ですか?」
俺の言葉がよく理解できないようで、爺は首をかしげる。
それに俺は笑顔を浮かべて、まるでどこかの宗教の信者が説法をするかのように、
「私は供物、この身はすべて智龍様に捧げるのです。少しも汚したくはありません」
「な、なるほど。覚悟が違いましたな。ホ、ホホホッ」
爺は俺の言葉に頬を引きつらせながら笑う。こいつやべぇ狂信者だとか思っているんだろうな。否定はせん。
智龍ちゃんは推しだ。俺の推し具合は狂信の域に達していると言えよう。
そんな風に1人で満足している俺を見ながら、
「あぁ~また出たよ。ヴェンの智龍様好き」
「な。あいつ智龍様大好きだからな。集中してるときとか名前呼んでも気づかないくせに、智龍様って言えばすぐに反応するし」
村の子供たちもそんなことを言って俺にあきれたような視線を向けている。
ただ、それに関しては俺もなんとも思わん。どちらかといえば誇りに思うくらいだ。ヲタクは「あいつってガチだよな」って言われて喜ぶものなのだよ。
「ん?智龍様、ですか?」
「ええ。智龍様です。もしや、智龍様をご存じない?」
フルールがつぶやき、俺はそれを聞き逃さずに問いかける。フルールは少し申し訳なさそうにしながら、小さくこくりとうなずいた。
ただ、別に申し訳なく思う必要はない。知らないのであれば、知ればいいだけの話だからな。
だから、この俺が、
「智龍様というのはですね………………」
「あぁ~。出たよヴェンの智龍様語り」
「あいつの智龍様の話めちゃくちゃ長いのに、面白いからつい聞いちゃうんだよなぁ」
教えてやることにした。
フルールの横に村の子供たちも並び、俺の話に聞きいる。
俺のスキルに話がうまくなったり人の興味をひいたりするものがあるから、布教にはもってこいだ。これを週に1度は聞かせてるから、村の子たちも今では立派な智龍ちゃんの信者だな。
俺という存在がいるから本人たちは理解していないようなのだが、客観的に観れば十分信仰心が高いものたちである。
俺も努力をした甲斐があったというものだ。
そんなことを思いながらできるだけ分かりやすく面白く、それでいて智龍ちゃんお素晴らしさが伝わるように語り、
「………………というのが、智龍様なのです」
「お、おぉ!!智龍様は素晴らしい方なんですね!」
「知ってはおりましたが、やはり智龍様は素晴らしい方ですね。そして、あなたもなかなかに語りがうまい。思わず私まで聞き入ってしまいましたよ。ホホホッ!」




