お城はどこに?
全体が見たかった振りで、亜美奈と桃子は島に降りて行った。半月型のその島は、降りてみれば全体を守る様に薄っすらと膜で覆われているのが解る。
側面にはずらりと窓が有り、島の中にも部屋が有ると分るが、それだけで無いだろうと予測出来る。
「結局、お城は作らなかったのね」
桃子の言い方には、安堵の色を多分に含んでた。
城は美しく夢が有るが、場所を取るし風にも弱い。高所を進む島には向かない。
「作ったらしいです」
「どこに?」
「ここです」
アンジェが指し示したのは、自分たちが立っていたその足元だった。
「とってもとっても、凄いです」
「それは…… 興味有るわね」
「お城っポイ装飾の部屋、って事かな?」
『行けば判るです」
そりゃあそうだということで、アンジェが指差す方へ行く。
すると、毎度お馴染みの扉が有り、特に躊躇することもなく三人は扉の中へと足を進めた。
「随分と広いけど、ここがあの島の中なの?」
「そう聞いてるです。島の中の一部です」
「一部。確かに、一部には違わないけど。それにしても広過ぎないかしら」
「ダンジョンと併用してるんじゃ無いかな。それなら、どんなに広い場所も作れるしね」
ダンジョン特有の、不思議なあかりに照らされて建つ城から、シンデレラが現れそうな美しさが有る。それとも、すでに走り去った後で、ガラスの靴でも落ちていたりして。そんな事を考えたくなる、美し過ぎる城だ。
「右側の扉が外に開くため、人が出入り出来るそうです」
「「へえ、……」」
あれが扉?
かつて病院を移動させた時の、あの大きな扉よりも更に大きいのではないだろうか。
「たくさんの人を、素早く乗り込ませるためだそうです」
「ああ、避難させるために造ったのね」
「それにしても大きいけどね」
そんな事を話しながらも、亜美奈は杖を用意した。腕に着けている何時もの杖ではなく、変身出来る例のアレだ。
もちろん着替えるのは、華やかなドレス。すぐ隣では、桃子もドレスに変身していた。考える事は同じということだ。
「えーっ、二人共なんで着替えてるです?」
「お城なんだから、ドレスは当然じゃない」
「そうね、当然よね。ほら、皆もドレス姿で迎えてくれているわよ」
先に到着していた人達が、出窓に立って大きく手を振っているが、考える事は皆同じらしく、女子はドレス、男子は正装で合わせていた。
「お城はドレスです? 私はお城でも、何時もこんな服装です」
天使の家は、高い山の上に建つ城なのだと、何時だったかミケルが言っていた。そして亜美奈と桃子の住む家も、結構立派な城である。
「言われてみれば、何時もお城に居るのに、私達普段着だったわね」
「何処に行く時でも扉を使っちゃうから、外観を見ることが余り無いのが敗因だと思う。確かに広いけど、外から見ないとお城感無いし」
何しろ各自の部屋は、好きな様に家具から造ってある。初めは色々と工夫をしてもいたが、結局は日本にいた頃の自分の部屋と同じデザインに落ち着いてしまったのだ。
「天使族のお城みたいに、窓から出入りすれば忘れないです」
「窓から出入りしてるの?」
「中は通路が入り組んでぐちゃぐちゃで、訳が判らないです。人間族の人達は、テロ対策と言ってたです」
「王様が住んでるお城だと、そういう対策も必要なんだね」
亜美奈達が住んでる島も、一応は対策されている。島と言うだけでも対策の一つだし、高い塀とその周りの堀も有る。更には、高さ一キロ以上もの切り立った崖に囲まれているのだ。
きっと百年くらい経った後には、様々な空想に依る勝手な伝説が創られている事だろう。
「まぁ、ここは特別感が有る城だから、って事で」
「特別です?」
「私達が住んでるお城に越して直ぐ、ドレス着て食事したでしょう。ああいう事よ」
「成程、人間は記念日が好き、です」
「記念日とはちょっと違うかな。今日みたいなのは、【人間は特別が好き】って感じ」
「特別が好き、です?」
因みに天使は、キラキラで派手ハデが好きだ。なのでアンジェも、遅れてはいるがドレスを設定した杖を使う。
「中に入るです?っ!」
因みに城の中は、猿島の城とそう変わらない内装だった。
正面玄関に、異常に華やかなシャンデリアがぶら下がっていたのと、中からは辿り着けない階が存在しない他は、ほぼ同じと言って良いだろう。
工房部分も倉庫として存在しているし、ダンジョンも大浴場に変わっているが、同じくそこに有る。
「大きなお風呂が二つ有るです」
「男湯と女湯なのね」
「それにしても、部屋数が多いよね。こんなに沢山の部屋、どうするんだろう。それも三つでしょう?」
「また、大きな災害でも有るのかしら?」
前回の台風の時は、急だったからダンジョンを利用しての避難だったが、予め判っているならこういうやり方も有りだと亜美奈は思う。
その下見の為に、今日は連れてきてくれたのだろうと、呑気に考えた亜美奈の後ろから、どこか懐かしく感じる声がした。
「いや、大陸の者達を分ける為だよ」
「ミケルさんって事は……」
隠れるようにミケルの後ろから、ひょっこり顔を出したのは、真鈴と心菜だ。
つづく




