色んな道具が有りまして
ミケルに頼まれたのは、精霊の子供を保護し育てることだった。
保護というのは石に閉じ籠った精霊を、渡された袋に入れれば良いだけの簡単なお仕事だ。どうやって保護するかは、まだこれから教えてくれる。
「そうそう、解放するのはどこでも良いけど、出来れば人の行き来の少ない場所が良いね。それから精霊は、一体に一つずつ、魔法やスキルのレシピを持っている。君達にはそのレシピを自分のものにしたり、何かに付与して他人に渡すという力が有る」
三人、思わず顔を見合わせた。
「もしかしてぇ、私たちがここに連れてきて貰えたのってぇ、その力を持ってるからなんですかぁ?」
「俺たちは『神の手』と呼んでるんだけど。強い『手』を持っている人間族は、不思議とこの世界に現れて数日以内に人の輪から離れるんだ。だから、比較的問題無く人間族の国から離すことが出来る。
ただ、それほど強い力の無い『神の手』はまだあの城の中にいるらしくて、ラエルとシエルは、今そっちに掛かってる」
神の手。
小説や漫画に有る、ギフトという力のことだろうか。
いったいどんな力か判らないが、平和な力だと良いなと思う。
何にしろ使うのが楽しみだ。
「じゃ、続き行くね。金のブレスレットが魔法の杖で、ワードは『マジエス』。
銀の方は、魔術の杖と言って、主にレシピを受け取ったり付与したりする時に使う物。人によっては他の『手』で使う事も有るらしいけど、その辺りは人によるとしか言えないから、自分で試してほしい。
ワードは『ギビング』だ。ワードというのは、魔法やスキルを使い始める合言葉。これから沢山出て来るから戸惑うかもしれないけど、大抵は覚えなくてもキーになる物を持てば、自然と頭に浮かぶから大丈夫。あ、ブレスレットは両方とも、失くさないように手首につけて置いてくれよ」
ブレスレットなのに杖だなんて、不思議だなと思っていた亜美奈だったが、触れてワードを唱えると杖の形に変わるのだそうだ。
箱が大きさを変えるのと、似たような魔法が罹っているのかもしれないと思い、ミケルに聞いてみた所、天使には『手』を持つ者はいないため、良く判らないと言われてしまった。
「どっちも綺麗だねぇ、キラキラしてる」
「うん、綺麗だし便利だし、ボク気に入っちゃったよ」
「私も~、綺麗だねぇ」
腕につけて光に翳すと、キラキラ光ってとても綺麗だ。
三人揃って光に翳していると、ミケルは困ったように肩をすくめた。
まだまだこれから、説明しないといけない事があるようだ。
「この本とプレートは、魔法、スキル、レシピを付与するための物。本の方は読むことで魔法を覚える、沢山の魔法とレシピが付与出来るし、多人数がレシピを使えるようにする事も出来るタイプ。金属の板は常に身に付けておく必要があるため、基本一人しか使えない。職業の基本レシピとかで使うと良いかな。
あとは、スキルによっては、プレートにしか付与が出来ないものや、そもそも付与の出来ないレシピやスキルが有る。今は、そういうのが有るってことだけ覚えておいて」
「はいっ」
「判りました~」
「で、レシピ付与してどうするんですか?」
「どうって、売るんだよ?」
「売る?」
「君たちがいた、あの国の人達に」
売るのは決して嫌じゃ無い。
どこかの街に行って行商するのは、まったく気にならないしとても楽しそうだ。
けれど、きっと困っているだろうクラスメイトや、学校の人達に売るとなると、勝手が違ってくる。
「初めから等価交換しとかないと後で辛くなるから。無料で渡すと、どちらかが『偉く』なってしまう物だから。
彼らのサポートについては、まだしばらく俺達がして行くから、君達は安心して売って良いよ」
等価交換。
お金で売るか、何か物を貰うか。
「どちらかが偉くなるって、ボクたちが『恵んでやる』ってやる日が来るってこと?」
「逆に向こうから、早く持って来い。持ってる物全部差し出せ。って言われることも有るな」
「あ~、なんかぁ、有りそうだねぇ」
「私も有ると思う」
亜美奈達なら虐めても構わないという生徒たちなら、きっとそうするだろう。
ほかのクラスにだってそういう輩はいるし、一人が言い出せば我も我もと湧いて出て来るのは、これまでの生活で判ってる。
ただ問題は、
「お金だねぇ」
心菜の言葉に、亜美奈も真鈴も頷いた。
学生ばかりだから、元々手持ちは少ないし、ここにはバイト先が無いため収入が無い。
銀行も造幣局もない。今誰かの財布に入っている現金が回るしか無いため、すぐに行き詰まるだろう。
「それについてはこっちで考えてる処だから、たぶん大丈夫なんじゃ無いかな。しばらくは物々交換というのも考えて置いて」
「物々交換かぁ。何と交換してもらおうかなぁ」
食べ物は亜美奈たちの方が良い物食べていそうだし、服も貰う訳には行かない。
趣味の物で、何か有ると良いが。
「最後に、ダンジョンを創り歩いて欲しい」
「ダンジョン?」
「ゲームとかに出て来る、魔物が居たり宝箱が有ったりするアレだよ」
「はっ………?」
「なんでぇ、ゲームを知ってるのぉ?」
ゲームだのダンジョンだの。いや、ダンジョンは有ってもおかしくは無いが、ゲームは無いだろう。
考えてみれば、色々おかしい。
家の造りはもちろん、言葉の端々に日本人では無いかと思われる単語が織り込まれたり、亜美奈達の会話も、普通に理解しているのだ。
「あの、ミケルさん達って、なんで日本の事良く知ってるんですか? あと、言語って日本語ですか?」
亜美奈が聞くと、ミケルは何かを考えるようなしぐさをしたあと、重そうに口を開いた。
「おれ達の国、おれの住んでいる城にも、来たルートは違うけど日本人がいるんだ。主に聖王を始めとする上層部のつがい、じゃなくってパートナーだっけ。
その中の『ゲーマー』と呼ばれるグループが、今、この国のルールを考えてる。RPGと呼ばれるゲームを元にしてるという話しだ」
「ゲームを元にぃ、法律を作ってるんですかぁ?」
少々嫌そうにする心菜の気持ちは、亜美奈にも理解出来る。
ゲームと言えば玩具の一つである。
もちろん、人気のRPGはその世界観も良く出来ており、本当に世界の一部にいるような感覚になることすら有るくらいだ。
「いや、法律って言うのは、人と人が上手く折り合いを付けるための物だろ? ルールは、自然を守り人間族もその一部として上手くやって行って貰うための、線引きのような物。具体的に言うと、人を大勢乗せて行く乗り物は作れない、とか、戦争が起こらないよう、街同士の交流は最小限にしなければならない。なんて感じ」
まずルール有りきで、後から入って来た亜美奈達人間は国造りをしなければいけない訳だ。
しかも、妙な言いがかり的なルールも、後出しで出てきたりするのだろう。
中心になって行く人達、校長を中心とした先生方は大変そうだ。
「と言っても、あまりに不便が過ぎたり物資が足りなかったりすれば、不満が噴出するだろう? もうずっとこの世界で生きて行かないといけないんだし、少しでも早く馴染んで、楽しく暮らして行って欲しいと思ってる。
だから君達や一部の商隊が自由に行き来して、技術を伝えて歩いたり、作った物を売買する事で不満を解消出来ればって思ってる。
それから、ルールについては『あれはダメこれは良い駄目』って言うんじゃなくて、無意識の内にそうなって行くようになる。ルールを考えるのは『ゲーマー』だけど、上層部が見直した上で神が最終決定するから、おかしなことにはなって無いはずだな」
「神様、いるんだ」
と言うよりも、神と意思の疎通が出来てるって有りなのかと亜美奈は驚き、当然のように心菜と真鈴も目を丸くする。
天使なのは見た目だけじゃなく、仕事もやっぱり天使なのだ。
どんな生活をしているのか、一度で良いから『天使密着二十四時間』を見てみたい。
「会ったりは出来ないけど、オレ達の王はそのご意思を伺うことが出来るんだそうだよ。 それから言葉は、一応違うらしい。意識して喋って無いから解らないんだけど、違うんだって話し。ただ、元々天使族には無かった言葉なんかは、城にいる人間族の言葉をそのまま使ってるから、降って来た人間族からしたら『有りもしない物の名前がなぜか判る』状況になってるんだな」
「降って来た?」
「召喚じゃぁ、無いのぉ?」
学校一つを丸々召喚など正気の沙汰じゃないが、神様がバックに付いているなら有り得ない事じゃない。そうで無くても召喚されたのだとこれまで思っていた。
ここに来て急に様々な事実が湧いて来て、何から聞けば良いか、どんな知識が必要なのか判らなくなって来た。
つづく
今日は休みなので、後でもう一本上げる予定です




