痛くないって言ったよね?
これは……
城の扉に手を掛けた瞬間、亜美奈は固まった。城の扉はガラス戸になっていて、閉まったままでも外が見える。
普段見えるのは、茶色い地面と城を囲むグレーの塀だけだった。
けれど今見えるのは、扉の向こうを埋め尽くす光だった。
「なんかこれ、出ても大丈夫なの?」
旅客機の時も沢山の精霊がぶつかって来たが、今日のこれはその比じゃ無い。
「精霊には実態が無いから、問題無いはずです」
「確かに精霊は実態無いけど、精霊石はぶつかると痛いよね」
「普通はぶつからないです」
なるほど。あの時は確かに、逃げて来た精霊が亜美奈に飛びついて来ていた感じだった。今回もそこに浮いているから、焦って走り出したりしなければ、きっと大丈夫。と、思いたい。
「そ~っと、ゆっくり行くよ」
「分かったわ」
大丈夫。きっと大丈夫に違い無い。
自分に言い聞かせ、桃子と二人で左右の扉をゆっくりと開き。
「うっそ~!!」
第一歩を踏み出したとたん、一斉に飛んで来た精霊に恐怖し、三人揃ってその場に座り込んだ。
確かに精霊事態は当たっても痛く無いが、やっぱり石は痛い。
そしてどういう仕組みなのか、精霊と精霊石は干渉しあうようで、精霊がぶち当たり弾かれた石が飛んで来るのだ。
「アンジェの嘘吐き~っ!! 何がぶつからないよっ」
「だって、って ……喋ると口に入って来るです~っ」
いったい何時まで続くのか、確認しようにも顔を上げる事すら出来ない。
騒ぐ桃子とアンジェを横目に、亜美奈はただうずくまって耐えていた。もう、それぐらいしか出来ないほどに、精霊と精霊石がぶつかり合って弾け飛んでいるのだ。
これは余りに酷すぎる。今後も同じようなことが、無いとは言えないのだし、対処法が無いか、アンジェに調べて貰った方が良いかもしれない。
集中してレベル上げするたびにこれでは、迂闊にレベル上げも出来ない。
「先ずは結界を張る。バリアと言う言い方も有るね。コレは『神の手』なら、全員もれなく持っている能力だ。
次に、結界に穴を開ける。大きさはだいたい、そうだなぁ、親指でつついた程度で良い。前後左右、四つぐらい有れば良いだろう。
それで外に出れば、穴から一つずつ入って、石になって落ちるから、ある程度足元に溜まったら穴をふさいで精霊石を集めて適当な袋に放り込んでおく。
後は落ち着くまで、その繰り返し。
時間は掛かるけど、他に方法は無い。と言うか、アンジェが一生懸命書いてたノートに、書いてただろう?
それも、でっかく赤い字で」
少し長いリエルの説明が終わると、アンジェは必死でノートを捲りソレを探した。
リエルの言った、大きな赤い文字は直ぐ見つかったようで、アンジェはガックリと肩を落とす。
「書いて有るです」
今にも泣き出してしまいそうなアンジェの頭を、桃子と二人で撫でて上げると、アンジェは少しだけ落ち着いたようだった。
「私、役立たずです。ごめんなさいです」
更に落ち込むアンジェの頭を、桃子と二人で軽く小突く。
「アンジェは赤ちゃん何でしょう?」
「そうだよ、赤ちゃん何だからこれからこれから」
「赤ちゃんだからこれから、です?」
「そうだよ、」
「これからよ」
ようやく機嫌を直したアンジェの、抱え込んだノートを指差し亜美奈は聞いた。
「そのノートに、この石の分別方法とか書いて無い? 一つ一つ解析してたら、日が暮れちゃう」
「そうですっ。コレですっ」
例の赤い文字の下、注釈付きで書かれた所を、アンジェは指さした。
「先ずは大きな袋を用意するです。次に鑑定を掛けるです。そうすると、自分のだけが光って見えるですから、収集魔法で集めるです」
「分かった。二人共、この袋を使ってね」
「私が入れちゃいそうです」
「本当、大きい袋ね。どうしたの、コレ」
巨大な袋をアンジェに二つ、桃子には念のため五つ渡しておく。
「売り物の箱を入れておく用。お店に渡す分には、三つ葉のマークを入れるんだけど。こういう袋に入れて売ると、少し高く出来るんだよね」
「ぼったくり?」
「戦略ですっ」
亜美奈が作ればコビトが手伝ってくれるおかげで、凄く早く出来るし材料もダンジョンのおかげで簡単に集まる。コピーの魔法で、増やすと言うのも有りなのだ。
けれど普通の人のスキルは、そんなに簡単では無いから、亜美奈が値段を下げてしまう訳には行かない。亜美奈が下げると、三つ葉の人達もそれに合わせて値段を下げなくては成らなくなる。
それを説明すると、桃子は理解してくれたが、アンジェとリエルは首をひねっている。市場価格という概念が無い、いや、それ以前に『物は買う物』という概念すら無いのたから仕方ない。
「ともかく、精霊石を集めてしまいましょう」
「それが良いね」
精霊石は集めて終わりじゃ無いのだ。鑑定を掛け、使えるようにしなければならない。
特にレベルの低い桃子は、鑑定に時間がかかる。一晩掛けて終われば良いが。
「そう言えば今日、何しようとしてたんだっけ?」
「もう、忘れたわ」
「そうなるよね……」
「なるです」
仕方ないが、今日は一日中精霊の鑑定だ。
「面白い魔法、有ると良いね」
「そうね……」
遠い目をする三人を、リエルが苦笑いで見ていた。
つづく




