どれとどれを交換こ?
もしも交換付与しても、それを自分の物に出来なかったら。
久我からの質問に、亜美奈は苦笑いを浮かべるしか無かった。
「あぁ~、有るよね~」
心菜も苦笑で頷く。
付与有る有るだ。魔法もスキルも相性が有るようで、先ほど持って来て貰った精霊のように、手を伸ばしても逃げてしまう事もあれば、相手の本に付与しても、渡したとたん消えてしまう事も有る。
「別の物を貰うか、欲しいのが無い時には今度にするか、かな?」
「せ~のっ、で付与した時はぁ、諦めてたよねぇ」
「その節は、本当に申し訳ない」
亜美奈の作るレシピの大半は、付与しても消えてしまう事が多い為、時に貰ってばかりいた時期が有った。
付与するのでは無く、普通に作ってレシピを作り上げるという方法も有るのだが、大きな物は女子三人で作るのは難しく。そこまでやってもレシピが出来ない事も度々有って、その場合は物々交換をするしか無かった。
「でもぉ、そのおかげでぇ今日もぉ可愛い~テントでぇ出来て嬉しかったよ~」
「あのテント良いよなぁ、ワンタッチ式のだろう? オレ逹も欲しくって頑張ったんだけど、骨組が上手く行かなくって諦めたんだよ」
「良いでしょう~、しかもあれ~、しまう時もワンタッチなんだよ~」
「亜美奈のレシピは、痒い所に手が届くよね」
「自分が欲しくて頑張ったからね」
箱とバッグの仕組みが知りたくて、何時間も鑑定し続けた結果、どうにか使えるようになったのがスイッチの付与だった。
蓋を開けると大きくなり、閉めると小さくなる。コレに何かの魔法が組み合わせて有り、あの箱が出来ている。
時間が止まる、あのシステムも知りたくて頑張っているが、さすがに高度なスキルのようでまだ見えて来ない。
そのため今はまだ、スイッチだけを組み込める物を探して作っている。
「レシピが作れるのも良いなあ」
「それはスキルでも魔法でも無いから、上げられないけどね」
「スキルっぽいのにね~」
ともかく今は、引っ越しスキルと何かの交換だ。
「じゃぁ、せ~のっで交換してぇ、消えたらぁ諦める~、ってことで~」
「判った。オレからは、ノロシの魔法でどうだ?」
「ノロシ?」
「何かに書いた文字や絵を、打ち上げて空に描く魔法。こうやって……」
久我は魔法の杖を起動し、地面に何かを描く。良く判らないが、動物のように見えなくもない。
そのハジに杖を引っ掛けるようにして、ヒョイっと打ち上げた。
「お~、キレイだ~」
「でも、なんの動物?」
「何って、見て判んないか? ペンギンだよ、ペンギンっ」
ペンギンと言うのは瓜のような輪郭に、手の様な翼と短い鳥の足と口ばしが可愛い、あの動物の事?
四つん這いで細い四本の足が有り、かろうじて口ばしだけが鳥類だと判らせてくれる。この動物が、ペンギン?
「「「画伯様っ?」」」
「様まで付けるなっ、笑うなっ」
そう言われたって、可笑しい物は可笑しいのだ。
「何か文字にすれば良かったのに」
「んなこと言っても、これって三つ葉からも見えるんだぞっ」
亜美奈達の家は、海を挟んで反対側に有る。元の世界と比べれば、だいぶ距離は有る物の大きく空に映せば、当然向うからも見えるのだ。某テーマパークの花火が、対岸から見えるのと同じだ。
「この『ペンギン』は、見せても平気なんだ」
真鈴が言って、また三人で笑い転げる。
ひとしきり笑った後で、亜美奈はこれが欲しいと久我に言った。
「面白いし便利だよね、これ。お祭りの時の景気付けに使えそうだし」
「うん。花火の代わりに使えるし、緊急時の合図にもなって良いと思う。ボクもこれ欲しいな。テントのレシピと交換でどうかな?」
「私はぁ、久我くんとは水温調整と交換でぇ、どうかなぁ。亜美奈のぬいぐるみレシピとは、ん~……」
「甘ロリ風森ガールセットのレシピが欲しいっ」
多分本当の名前は違うのだろう、このレシピ名は三人で考えた物だ。
ピンタックのブラウスに、ノースリーブでフリルとカットレースたっぷりのチェニックワンピ。フリルの付いたカーディガンと、靴は編み上げのパンプスに似せたスニーカーだ。
一つ交換してもらったのだが、このセットをいくつか持って使い回して置けば、ワンシーズンそれで行けると思うし、素材を変えればずっと使える。ただしデザイン的に十代の内だけだろうが。
大人になる頃にはきっと、大人可愛いセットのレシピを誰かが作ってくれると信じてる。もちろん亜美奈も、考えられるよう努力したい。
「ボクも引っ越し欲しいっ。小銭って量が有ると本当に重いんだよ。杖で指すだけで移動出来たら、絶対に楽」
「じゃあ、ウエディングドレスのレシピで」
ササッと三人が後ろに引いた。
なぜ惹かれるのか判らない。亜美奈に結婚予定の相手がいない事は、入学以来ずっと一緒にいるのだから知ってる筈なのに。
「私じゃなくて、妊娠してるっていう学校の女の子に着て貰うのっ」
「「「ああ~」」」
「多分これから、ボロボロ出て来ると思うんだよね。でもほら、言いにくいじゃない? あの状況で妊娠してます~、なんて。だから大々的に結婚式挙げて貰って、言い出しやすい空気になれば良いなあって」
亜美奈逹が逃げ出した原因になった人たちは、すでに三ツ葉には居ない。一人を除いて、島に連れて行かれたし、残っている一人は反省して謝罪してくれた。
残っている全ての人々が、善良とは言い切れないだろうが、それは協力しない理由にはならない。
それに亜美奈には、欲しい物が有る。
「なるほどねぇ。それは確かに喜ばれそうだけど。そんなにお金出せるかなぁ?」
「大丈夫、学校で買い取って貰うから。で、レンタルドレスにしてもらえば良いよ」
友達が着たドレスを着るのは嫌だという人もいるかも知れない、けれどこういう状況なのだ、ある程度の妥協も必要だと納得出来るだろう。出来なければ頑張って自分で買えば良い。
「学校も、そんなに予算無いんじゃ無いかな?」
「お金は無いけど、本は有るよ。今日のトレーラーハウスだって、ほとんど本と交換したし」
「そう言えば、靴の方も雑誌と交換してたよね?」
現金はこれからいくらでも稼ぐ事が出来るし、お金が無くて困る事も少ない。
「服やアクセサリーのレシピ作るのに、ファッション雑誌が有ると便利だなぁ、って思ったんだ。図書館の方にも、家や家具とかのデザイン系の本がいっぱい有ったからそれと交換して貰ったの。あと、子供向けの絵本」
「絵本なんてどうするの?」
「まだはっきりしないけど、子供達が大きくなってきた時、文字を覚える為の教科書とか。う~ん、移動図書館も作れるし? コピーで増やして売る?」
それから、元の世界を忘れないようにするためにも、綺麗で難しくないお話しの本は有効だ。
「あのまま図書館に置いておくと、ぜったいに壊されてボロボロになっちゃうからね~。全部は無理だけど、少しは『箱』に入れて保存しようと思ってるんだ」
「保存かぁ……」
後に生まれた人たちが、元の世界を懐かしむかどうか判らないし、そんな物はずっと先の事だ。けれど少しだけ、取っておいても良いかな、と亜美奈は思う。
とは言え、いつまでもそんな話をしていてもつまらない。今は目の前のワクワクを優先だ。
「はいっ、コレが私の本」
亜美奈が本を出すと、他のみんなも思い出すように本を出す。それを順番に交換して、付与会の始まりだ。
間違えないよう気を付けながら、指定のスキルやレシピを付与する。
三人分の本に付与を終えると,タイミング良く亜美奈の本も戻って来た。
「じゃぁ、ダメでもぉ、恨みっこ無しね~」
「おうっ、もちろんだぜ」
緊張の一瞬。
それぞれの魔法・スキルは、本の中でどうなっているのだろうか。
つづく




