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小人さんと頑張りますよ

 今日は何をしようか、ぼんやり考える。

 もう絶対に帰る事が出来ないと聞いた日、初めにしたのは裁縫スキルのレベル上げだった。

 Tシャツは沢山有るが、後は制服とジャージだけで下着が無い。洗濯はしているがレベルの低い乾燥魔法程度では完全に乾く事は無く、生乾きの下着を着るのはスッキリしない物が有る。

 造れるのは開襟シャツとスカート、ズボン程度だったが、頑張ってレベルを上げた甲斐も有り、一番単純なスポーティータイプの上下セットが作れるようになったので、毎日替えられる数の下着を作る事が可能になった。

 開襟シャツより下着の方が簡単だろう、と言いたかったが、多分そういう事じゃないのだろう。つまりは『気にしたら負け』という事だが、出来たからもう良い。


 二日目はガラス工芸と皮革工芸をやってみた。

 ガラスではダンジョンで使う片手剣をペーパーナイフのレシピで作り、それから江戸切子を真似したグラスも作ってみた。こちらは、もどきにもならなかったけれど。

 皮革工芸では、ボディバッグとスニーカーを作ってみた。こちらはレシピが無かったので、かなりもどきと言える出来だけど。それにより新しいレシピが出来たので、亜美奈としては満足だ。


 そして三日目の今日。作りたい物が出来た為森に足を踏み入れ、良さそうな木を探す。

 レベルの問題で枝打ちぐらいしか出来ないが、目標が有った方が頑張れそうな気がしたからだ。

 少し行った所に、太く真っすぐな良い木が有った。

 その隣に、多分同じ種類の若木が生えている。


 亜美奈は先ず、若木に向けてオノを構えた。三角帽子の小人達が、ここを切るんだよと教えてくれる。

 だからそれに従って、そして丁寧に枝を払う。そうしておくことで、将来節の少ない良い木になるのだと、不思議と理解出来た。

 良い木を作るのも、木こりの大事な仕事なのだとスキルが教えてくれる。

 いくつか枝打ちしているとレベルが上がり、柔らくある程度の太さが有る木を切る事が出来るようになった。

 どうせ切るなら使う木が良い。辺りを探すと元気に跳ねていく小人達が、良さそうな木教えてくれる。その木を切ればレベルが上がる。するとまた小人が、切りやすい木を教えてくれて。切る。

 幾度かそんな事を繰り返しているうち、初めに目を付けた木を切る事が出来るレベルになっていた。


「お腹すいた」


 足元の影はずいぶんと短くなっている。

 夢中でやっている内、もう昼が近くなっていたらしい。

 木を切るのは午後に回すことにして、亜美奈は工房に向かった。

 用意してくれた料理も有るが、せっかくだから自分で作りたい。

 確か食材は工房一階の棚に、箱に入れて置いて有ると言っていた。

 今はまだ、目玉ぐらいしか出来ないが、それでも良いと食材を探すと、パンと玉子、レタスを見つけた。

 スキルを使い目玉焼きを作る。それをパンに乗せてレタスを手に取ったとたん、サンドイッチのレシピが出来た。

 スキルを使い目玉焼きサンドを作るには、一度別々にする必要が有るためそれぞれに分け。改めてスキルの小人に手伝って貰い、サンドイッチを作ってみれば、塩コショウとマヨネーズがバランス良く利いた、美味しいサンドイッチが出来た上、レベルも上がった。


「良く出来てるけど、一人じゃ美味しさ半減だよ」


 ああ、と亜美奈は思う。

 だから心菜と真鈴は、亜美奈を切れ無いのだと。

 あの二人が居なくなった後、亜美奈は一人になってしまう。

 本当の一人にだ。


 どうしたものかと息を吐いて、亜美奈はあの木の所に向かった。

 上手に切れたらテーブルを作ると決めている。

 一階のあの、何も無い部屋に置くテーブルだ。三人で落書きしたり、おやつを食べたり。そんな事が出来る場所になる。


「誰か友達を作る。もしくは、一人でも頑張る」


 今からではどちらも難しそうだ。けしてコミュ障じゃ無いはずなのだが、どうしてか高校ではあの二人以外に友達が出来なかった。


「近い未来、見つかるかもしれないよ」

「ミケルさん……… 見回りですか?」


 心菜は一階で服を作っていた。

 真鈴は三階に登って行くのを見た。三階には錬金釜が有るから、薬か御守りを作っているのだと思う。

 ミケルはこの二日間、朝晩しか姿を見なかった。一日ずつ、三人を順番に見ていたのだろうか。


「まあ、そんな所かな。後、必要な素材が無いか聞きに来た。けど自分で用意出来たみたいだね」

「採集の方も、やっておかないと」

「うん。でも、ダンジョン作れば、本当は採集も楽なんだけどね」

「そうなんですか?」

「うん、ダンジョン作ってみる?」

「作って欲しいんですね?」


 ニヤリとミケルが笑う。


「初心者用ダンジョン作れるの、世界中探しても今は君達三人しか居ないんだ。だから出来れば、」

「別々に散って、ダンジョン作って欲しいんですね?」

「君たちの希望が最優先されるけどね」


 自分の希望。

 もちろん、三人で一緒に暮らしていきたい。でも心菜と真鈴には同じ世界に兄弟がいて、血のつながった家族と暮らす事も出来るのだ。


「ダンジョン作ってみますね」


 今は考えたく無い。

 考え無くって良いと決める。

 もう少しの間だけ。


「じゃあ、東屋に行こうか。あの辺なら、幾つダンジョン作っても問題ないから」

「穴だらけになっても、家から見えませんしね」


 まさかあの東屋は、穴隠しの為に作られたなんて事が、あったりして?

 それはともかく。東屋のテーブルにペンタブを置き、どんなダンジョンにしようか考える。

 ダンジョンというのは、魔物がいて採集出来る草木や鉱物が有る。そしてボス戦の後、宝箱が現れ良い物を入手出来る。

 それが亜美奈の持つダンジョンのイメージだし、このペンタブで作れるのも、そんな感じだ。

 とは言え、適当に作っても仕方ない。採集したい物を、あらかじめ考えておかないといけない。

 いやもっと言えば、作りたい物を先に決めるべきかもしれない。


「何を作ろう。家具、服、靴とか……… ああ、カレーライスが食べたい。家のカレーは少しだけとろみが強くて、中辛なのに結構しっかりと甘みと旨味が有るんだよね。お肉は豚肉で~、端っこに福神漬けとゆで卵のスライスが乗ってるの」


 詳しく思い出したおかげか、レシピが出来た。必要なのは、ジャガイモとニンジンとタマネギは二種類。飴色のと、ある程度形の残った大きめの奴だ。レシピもしっかりそうなってる。


「そうしたら。一層は、お米とジャガイモとかの野菜、福神漬けはどうかな。『ズッケーッ』て鳴く変な鳥が、大黒様の袋担いで逃げ回ったり? あ、凄い出来そう。他の魔物は、ニワトリでドロップは玉子。

 二層で隠し味のリンゴと蜂蜜。魔物は豚でドロップは豚肉。ボスは……… インドと言えば象、で、ご褒美の宝箱でカレールーを、お替り分も入れて六皿分。カレー出来ちゃった。

 そしたら三層はデザートかな。チョコレートパフェが食べたい。魔物は牛で、ドロップは生クリームとバニラアイス。ラスボス戦は、何だろう。チョコレートが欲しいから、天使、は無理だよね。そう言えば、タヌキのケーキが有った。チョコのタヌキ。決まり、ラスボスはタヌキ。

 で、ご褒美宝箱は当然チョコレート。良し、出来た」

「あの、亜美奈………?」


 調子良くダンジョンを組み上げて行くと、ミケルが顔をひきつらせながら声を掛けてきたら。


「何ですか? 問題は魔物の倒し方と、ドロップ品の出現の仕方かなぁ」


 やはり、いかにも殺す感じは嫌だし、血まみれの肉をバッグに入れるのも避けたい。ワガママだろうが、出来る限り生臭さを排除したいのだ。

 とはいえ、食育という言葉も有る。命を頂いている感も、残さなければいけないだろうか。いや、ここは三人だけしか入らないし、今回は無視で良いだろう。


「亜美奈~。亜美奈さ~ん?」

「はい、あれ、ミケルさん」

「やっと戻って来たね」

「はい? ああ、集中してたんですね、私。すみません」


 色々考えている内楽しくなって来たようで、ミケルがそこに居るのも忘れて空想してたようだ。


「所で、レシピが出来たって言っていたようだけど、どういう事?」

「どうって、言葉の通りです。料理に限らず、鑑定するとレシピが出来るし、イラストを描いたり、出来る限り具体的に考えると、やっぱりレシピが出来たりします。出来ないのは多分、レベルが上がれば自然に増えるレシピに含まれているんですね、きっと」


 心菜や真鈴に聞いた事は無いが、初めから出来た事だし難しい事では無いはず。


「あのね、亜美奈。頭の中だけでレシピが作れる『神の手』は、未だかつて聞いた事が無いんだ」






                        つづく

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