日本人ならカレーだろう
新しいレシピは必要無いのか、それともすでに出尽くしている?
いや、それならカレーライスのレシピぐらい、すでに存在していなければ可笑しい。家ごとの味はあっても、日本人ならカレーだろう。
「じゃあどうやってレシピ作ってるんですか?」
「スキルの道具を使って普通に作る、するとレシピが出来ると言われてる。で、それを精霊が拾って、レシピとして持つ事になる。そう言われてる。ただこの国に今いる精霊は、神がこの世界の為に作ったから、まだ沢山は持って無いんだ」
つまり目玉焼きサンドを作った、あの要領で出来たレシピを精霊が見つける事で、きっと新しいレシピとして判断されるのだ。
そうすると、今亜美奈が作ったカレーのレシピも精霊が拾って、他の『神の手』が入手したりするのだろうか。いや、今作ったレシピは、実際にはまだ作って無いから、精霊も気づかないはずで、拾う事は出来ないだろう。
それにしても人の作ったレシピを拾うなんて、精霊って面白い生き物だ。
「それに、レシピを元にダンジョンを作るなんて、聞いた事無いんだよね」
「それは別に、やらなかっただけじゃ無いですか?」
「かもしれない。実際に作ってるしね。けど変わった作り方だから、真鈴や心菜も出来るかどうか、後で聞いてみよう」
「はい。えっと、じゃあ続けて良いですか?」
「うん、どうぞ」
許可を得て亜美奈は、ペンタブに再び目を落とす。
板の端には、幾つものの丸い石が付いている。それらには何か書いてある訳でも無いのに、なぜだか使い方が判るのが不思議だ。
その内の一つに亜美奈は触れ、考えた事を板に伝える。
『魔物に軽い衝撃を加えると、ドロップ品を落として逃げて行く。ドロップ品は全て魔力の膜に包まれて宙に浮いていて、使う時までは膜は壊れ無い』
一旦指を離し、再び触れると成功した事が判る。続けてもう一度。
『入口に入ってすぐ、大きな巾着袋が貰えて、それに入る分しか魔物も植物も出現しない。ただしボスは別。後、最後のボスを倒して宝箱を開けると扉が現れ、その扉から出ると入り口に戻れる』
それも成功した。
後は確定するだけという所まできて、亜美奈は思い付く。
コーンフレークが欲しい、と。
パフェに入っているコーンフレークは、賛否両論有り許せないとまで言う人が居るのも判っているが、亜美奈は好きなのでぜひ入れたい!
「三層にトウモロコシが生えていて、採るとスイートコーン、いやそのまま茹でても食べたいから、普通に採集。
で、コーンフレークのレシピは、………確か、ぺったんこに潰して焼くんだよね。電子レンジでも作れるって、聞いた事が有る。
最後に砂糖を薄一く吹き掛ければ出来上がる。コーンフレークのレシピの出来上がり、っと。そうしたら場所を選んで」
左下の大きめの石に触れて、ダンジョン起動と強く願う。
「初ダンジョンの出来上がり」
後はクリアして、カレーライスとパフェを作れるだけだ。
どちらもレシピのレベルが高いが、自力で作れる物だから問題ない。
「なあ、亜美奈。そのカレーライスって言うの、城に住んでる人間達に食べさせてあげたいんだけど」
「かまいませんけど、カレールーが二層のボス戦だから、必要な量によっては面倒な事になるかもしれませんよ?」
「オレも一緒にダンジョンに潜るよ。みんな、もう何年も前から『カレーが食べたい』って言ってるんだ」
「判りますっ。日本人ならカレーとら-めんは捨て切れません。これは絶対!」
どちらも国民食だ、離れていたならなおの事食べたいに違い無い。
「ラーメンは、次にまた挑戦する事にして、今日はカレーを頑張りましょう。結構沢山作らないといけないんですよね?」
「悪いね、本来オレ達は手伝いするだけの筈なのに、逆に手伝って貰っちゃって」
「偶には逆も良いですよ。何より、気も紛れますしね」
そう言って初めてダンジョンに入った亜美奈達だったが、一層目に有った米に目が眩んでしまい、二層にたどり着く前に、何度も外と往復する羽目になるのだった。
やはり米の品種を『コシヒカリ』にしたのは、まずかったかもしれない。美味しい白米の誘惑に、日本人なら抗う事など出来ないのだ。
レシピは有ってもレベルが足りない為、小人の助けは借りる事が出来ず全て手作業だ。
それでもスキルの道具を使えば、普通に作るよりずっと時間がかからず料理が出来る。後片付けもやってくれる、便利な道具なのだ。
とは言え、カレーは煮込む時間が有る為、手作業では完璧時短とは行かない。しかも量が有る為、目も離せない。
「焦げないように弱火で宜しくお願いします。ガッツリかき混ぜると、ジャガイモが崩れるから程々にして下さいね」
「判った、気を付けて見ておくよ」
少し、いやかなり心配だが、せっかく切り倒した木を無駄にしたくなく、カレーはミケルに頼み亜美奈は工房に向かった。
通常、切り倒した木は乾燥させるために寝かせる必要が有る。だがスキルで切った木は、すぐに使えるようになるのが便利だ。
どうしてそうなるか判らないが、鑑定でそう出ているのだから従うしかない。木の切りすぎを防ぐためという意味も、もしかすると有るのかも知れない。
今回は使わない細い木や枝は棚にしまい込み、亜美奈は何もないフロアに立った。
「まずは製材。ワードは『大工』、そして製材を選んで。小人さん宜しく」
はいっ、とばかりに飛び出て来た小人が、丸太を板に加工していく。小人が指定してくれた通りに作業すれば、アッという間につやのある板の出来上がりだ。
その板を使い、高さを調節できるタイプのテーブルを作る。通常は床に座って使うタイプだが、足を追加すれば椅子が必要なダイニングテーブルになる。
次に座椅子を四つ。少し大き目で、ゆったり背を預けられる形にした。
それらをバッグにしまったら、今度は一階に移りクッションと座布団を作ろう、と思ったら。
「その座布団、もしかして?」
心菜が四枚の座布団を、丁度作り上げた所だった。
「す~っごい良い匂いがしたからぁ、早く食べたくってぇ作っちゃったぁ」
「お皿も丁度出来た所だよ。ほら、良い形でしょ?」
振り返ると真鈴が、ガラスの皿を手に笑ってた。
気づけば亜美奈も、胸がスッキリしていた。
あれだけ悩んだのが嘘の様だ。
「一週間経たずに、自分達でご飯の用意出来たね」
「亜美奈一人で、だけど」
「スキルのレベル上げすれば、みんな作れるよ」
「私もぉ、亜美奈に貰ったサンドイッチのレシピは作れたよぉ」
「ボクは、焼き肉にサラダ付けられた所だよ」
「それにご飯付ければぁ、ちゃんとしたぁ定食になるよぉ?」
炊飯はレベル三で出来るので、あと少しで真鈴にも炊ける。
そうすればとりあえずの範囲だが、自立の出来るレベルと言って良いだろう。今の所三人一緒なら、だが。
つづく




