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いっこの差  作者: 夢呂
【第二章】
96/283

スポーツ大会(後半)

「鈴木さん、中宮さんすみません…」

サッカーの試合を見始めたところで、

息を切らせて仁科くんがやってくる。


「うちのクラス、もう一試合あるみたいで、もうすぐで始まるんで来てください」

私の様子を気にしながら、愛梨と彩に話しかける。



「え、負けたのにまだ試合あるんだ」

「せっかく練習したんだし、次こそは勝とう!!」

彩と愛梨が言うと、私の足を見て、

「茗子はここにいて、春先輩応援してなよ」

「え、でも…」

私だって、彩たちと練習してきたんだし、

応援に行きたい…。


「足首に負担かけない方がいいから、このままここに座ってなよ」

「そうそう、終わったらまたここに来るからさ。茗子の分もうちら頑張るし!!」


「…分かった、頑張ってね」

また体育館まで行くのに二人の手を借りるのは

時間もないし、申し訳ないし、

私は素直に従うことにした。




仁科くんと彩と愛梨が行ってしまうのを見届けて、

ハルくんのサッカーの試合に目を向ける。



ーーーあれ…ハルくんの相手チームの人…。

比嘉先輩と嘉津先輩だ…。

二人、同じクラスだったんだ…。


比嘉先輩は、女子に人気らしく、

キャーキャー騒がれている。


ーーハルくんも、やっぱり人気で、声援がすごい。


私はその女子たちには気付かれないように、

少し離れたところで見ていた。


ハルくんのサッカーしてる姿見るの、

小学生以来だから新鮮だな。


やっぱりかっこいいな…

本当にあの人が私の“彼氏”なのかな…。


こうして遠くからハルくんを見ていると、

いつも隣にいる人じゃない気がしてしまう。



最近触れていなかったせいなのかな…。


なんだか心が…遠くに感じる…。



「行かなくて良かったの?」

声をかけられて振り向くと、

バスケの時の女の先輩がにこやかに立っていた。


「あ、さっきは足を踏んでしまって本当にごめんなさい。……あの…大丈夫でした?」


「ほんと、すっごく痛かった。ま、もう何ともないからいいけど」

先輩が無愛想な態度で言う。


「本当にすみません…」

私が頭を下げると、


「それより、こ・れ・見て」

急に態度を変えてニコニコし出すと、

先輩が携帯電話の画面を見せてくる。


「ちょっと…」

ーーーーそれは、さっきの…。

私は言葉を失った。


先輩は私の顔色が変わるのを楽しそうに見ながら、

話し出す。

「さっきはかっこよかったよねー、仲西くん。まるで少女漫画に出てくる王子様みたいで。これ、クラスの子がね、あまりにかっこ良かったから、つい写メ撮っちゃったんだって」


「………」

ーーーー嫌な予感がする。

まさか、それを…。


「春くんが見たら、どう思うかしら?

ーーー今回は、私たち、何も仕組んでないよね?」


「やめてください…」


消え入りそうな声で、私は呟く。


「私が春くんに見せなくても、あの時のことは、すぐに広まるわよ?うちのクラスでも一年生(あなたたち)カップルの話で、すっかり盛り上がってるし?」



「そんな…」

私が呟くと、

先輩が苛立ちを露にして、声を荒げる。

「どうしてあんなことできるの?春くんの気持ち、考えてよ。あんたがそんなフラフラしてるから、私達、諦めきれないんじゃない!!」


「私、フラフラなんて…」


「してないって言い切れるの?あんなんで?」

先輩のことばが私を責める。


「じゃあ仲西くんは嫌いってこと?」

「嫌いなわけないです」

私は即答した。


ーーー仲西くんを嫌い?

…そんな人、いないと思う。


「それってどっちにもイイカオしてるってことじゃん。だったら仲西くんと付き合えば?皆ハッピーになれるんだから」


ーーーーみんな、ハッピーに…?

私がふと思ったときだった。



「ちょっと瑞希ちゃん?茗子ちゃんに何言ってるの?」


私と先輩のところに、

かすみ先輩が近寄りながら話しかけてきた。


「かすみ先輩…」

「なによ、かすみ、邪魔しないで」


「ちょっと聞こえたけど、航と茗子ちゃんをくっつけようとしてるの?」

おかしそうに笑いながら、先輩に言う。


「なんで笑うの?かすみも、その方が良いと思わない?」

瑞希ちゃん、と呼ばれた先輩がかすみ先輩に、

同意を求める。


「思わない。だって私は二人(はるとめいこちゃん)がどんなにお互いが好きか知ってるからね。誰よりも…」



「なにそれ…」


「とにかく、二人の邪魔しないで。春にも言われたでしょ?」


瑞希先輩が、

かすみ先輩に言われて私の前から姿を消した。


「かすみ先輩…ありがとうございます」

私がお礼を言うと、かすみ先輩が足を覗きこむ。


「大丈夫?…足の噂、私のクラスでもすでに広まってたよ?航がお姫様抱っこで保健室連れてったとか…」

「そうですか…」

ーーー確か、かすみ先輩はB組…。


「春のクラスはその場で見てた人もいたんでしょ?絶対に春の耳にも入るわよ…嫌でも。

茗子ちゃん、春、航……三人は今や、うちの高校で超有名人で噂が堪えないから」


「そんな…有名人だなんて」


「春はもともと、高校でも有名よ。分かるでしょ?中学の時のファンクラブも健在。彼女(あなた)の存在が知られるまではね。茗子ちゃんが彼女だって知られてからは、私もよく分からないけど…さっきの瑞希ちゃんみたいな熱狂的なファンはやっぱりあなたは邪魔な存在よね…」


「そうみたいです…」


自分で言って、泣きそうになる。

ーーーー邪魔な存在なんて…。


かすみ先輩が、私の隣に座ると話し出す。

「私と春が別れた話は、聞いた?」


「突然フラれたって…」

私の言葉に、かすみ先輩が苦笑した。

「そっか」


「私、茗子ちゃんが中学に入ってくるまでは、春と本当に上手くいってたの。でも二年になって…茗子ちゃんが入ってきて…春が茗子ちゃんと登校して来たとき、あぁなんだ…春は他にも好きな子居たのかって思った。」

「え…」

ーーーーかすみ先輩?


「春の表情みれば、すぐ分かったわよ…。私のこと見るときと同じ顔してた。」

かすみ先輩が、切なそうに笑って話す。



「でも、悔しいから春には言わなかった。それに、絶対に別れないようにやっていこうと必死だった。でも必死になればなるほど、束縛しようとして…虚しくなってきちゃって…。」


「………」

かすみ先輩の気持ちが、

私の心に響いて切なくなる。


「私は自分から春のこと、手放した…。春が自分の気持ちに気づいて私から去っていく前にーーだから」

かすみ先輩が私の顔を見ると、強い口調で言った。

「あなた達に幸せになってもらわないと、私が報われないの」


「……すみません」

「謝られると腹立つからやめて。ーーー私は今ちゃんと幸せだから。新しい彼氏と。」

「…すみ」

また謝りかけて黙る。


「茗子ちゃん、航のこと、友達として仲良くしてるのは分かるけど。それって春にはどう映ってるか、分かる?」

かすみ先輩が立ち上がって、言う。

「え…」

私がかすみ先輩を見上げる。


「私と春が仲良く話してたとき、茗子ちゃんが思っていた気持ちと、同じ」

かすみ先輩が私にそう言うと、じゃあねと行ってしまった。



ーーーかすみ先輩とハルくんが話してるとき…。



私は“話さないで”って思った…。

苦しくて…そんな自分も嫌で…。


ハルくんも同じ気持ち…?

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