勝利の女神 ~春目線~
「まさか、優勝するとはなー」
選手用の控え室で、着替えながら寛人が笑顔で言う。
「これは、もしかしたら全国行けるんじゃね?」
「でも、相田ちゃんが居たからってのはでかいな…」
「そうそう、相田ちゃんに良いとこ見せたいって、いつもより張り切っちまった!」
ーーーー先輩たち、茗子の呼び方変わってるし。
今日の試合が終わり、
西高バスケ部の皆が優勝に喜びながら雑談している。
「な、春もそう思うよな?」
同じスタメンの先輩が笑顔で尋ねてくる。
「そうかもしれないですね」
俺も言葉を合わせる。
「しっかし、あの嘉津が相田ちゃん連れてくるなんてなー、びっくりしたわ」
「あぁ、本当、今まで誰もマネージャーとらなかった嘉津が…」
俺は先輩達の会話には入らず、着替える。
ーーーあの日。
練習の後、嘉津先輩に呼ばれた日のことを思い出す。
「昨日見学に来てた、一年の女子の…相田は、お前の彼女なのか?」
「はい」
俺が即答すると、嘉津先輩がため息をつく。
「あいつはダメだ。」
その言葉にカチンと来る。
「なんで先輩が決めつけるんですか?」
「バスケ部のマネージャーをしたいんじゃない、お前がいるから、それだけだろ?」
「………」
何も言えなかった。
「そんなやつ、部員全員のサポートができるとは思えん」
「……じゃあ、チャンスください」
「チャンス?」
「次の試合、茗子が応援に来て、勝てたら、文句ないですよね?」
「なんで、そうなるんだよ」
「茗子が居れば、勝てるからですよ」
俺は断言した。
茗子が見ていてくれたら、俺は絶対に負けない。
ーーー今日、それを証明した。
着替え終えて、帰ろうと会場に戻ると、
嘉津先輩について、茗子が会場の片付けを手伝っていた。
そんな茗子を、他の高校のバスケ部のやつらが、
見ていることに気付く。
「西高のマネージャー、やたら可愛いな!!」
「今まで女子マネージャー居なかったのに、急にあんな可愛い子が…」
「俺、今度から試合の楽しみ増えたわー」
ーーー嫉妬、本当きりがないな。
こんな他校のやつらに見られただけでこんなにイラつくなんて…。
茗子はそんなことを言われてるとも知らずに、
嘉津先輩の指示で、一生懸命片付けを頑張っていた。
「はーるーくんっ!お疲れさま!!」
「今日もかっこよかったよー」
「優勝、おめでとうー」
いつも試合を見に来るクラスの女子三人が俺の前に現れた。
「あ、ありがとう…」
ーーー本当はもう、来ないで欲しいけど。
やっぱりハッキリと言うことができない。
しばらくして、
片付けを終えて嘉津先輩が集合をかける。
俺は女子たちから逃げる口実ができて、
ホッとする。
「今日は優勝おめでとう。
皆、いつもより自信持ってプレー出来てたな。
日頃の練習の成果…と言いたいが、どうやらそれだけじゃないようだ…」
苦々しい顔をして、嘉津先輩が言う。
「ーーー相田を、これからバスケ部のマネージャーにする」
「「え!!」」
嘉津先輩の言葉に、全員が驚いた。
隣にいた茗子本人も、驚いて固まったままだ。
「相田、頼めるか?」
「え、でも私は料理部で…」
「料理部長には俺から話をつける」
「え…嘉津先輩が?」
茗子がキョトンとして嘉津先輩を見ている。
「茗子ちゃん、嘉津先輩、うちの部長だからね…」
こそっと寛人が説明すると、
「えっ」
茗子がまた驚いた。
「知らなかったのかよ…」
嘉津先輩が呆れた顔で言う。
「相田、これから覚えること山程あるからな。」
「はい、よろしくお願いします」
茗子が慌てて頭を下げると、
皆から拍手が起こった。
俺はその時、気づけなかった。
俺の背後にいた、女子三人が茗子をどんな顔で見ていたのかーーー。