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一瞬の再会
「茗子…今から外出?」
仕事はじめから、数日が経ったある日、
偶然会社のエレベーターでハルくんと会った。
「うん…ハルくんも?」
私の唇にそっとキスをして、抱き締めながらハルくんが言った。
「うん…。やっと会えた…」
―――こうして会うのは、クリスマス以来で…ドキドキする。
「あれ?指輪してないの?」
私の手をそっと持ち上げて、ハルくんが尋ねる。
「だって…婚約しても結婚はまだまだ先なんだし…」
―――会社の人達にいちいち説明するのも、嫌だし。
「してくれないと、変な虫がついたら困るから。明日からちゃんとしてきて?」
ハルくんはそれだけ言うと、先にエレベーターを降り、
エントランスにいた外部の人と会社を出ていった。
――――ハルくんは仕事のできる人。
私は、社内の落ちこぼれ…。
『壊すしかないわね』
営業事務の女の人達の言葉が、私を、より不安にさせる。
ハルくんが来年からアメリカに行って、
私は、日本にいて…この不安がもっと大きくなるのは嫌だ。