新年初日
会社の給湯室では、いつも色んな情報や噂話が飛び交う。
「海外プロジェクト部の噂、聞いた?」
「聞いた聞いた、なんでもアメリカの老舗ブランドメーカーを買収するって話でしょ?」
「そのメーカー会社、あの中途の澤野さんが元々就職してたらしいのよ」
「えっ、マジ?それで海外プロジェクト部に抜擢されたの?」
「いやいや、うちに転職するのは最初からそ目的で社長と繋がってるらしくて…まぁコネ入社?みたいな」
「それって、じき幹部候補ってこと?あの若さで?」
「狙い目だわー、かなりのイケメンだし!」
「でも澤野さん、総務の相田さんと幼馴染みらしいし…」
「は?すごい偶然じゃない?」
「てか、付き合ってるんじゃない?」
「なーんだ…、じゃあ壊すしかないわねー」
――――恐ろしい会話を、
これ以上聞いていられなくなって、私はデスクに戻る。
―――今の…営業事務の女の子達だ…。
ハルくんが、社長と繋がってる?幹部候補?
―――私…ハルくんのこと、まだ知らないことがあるんだ。
ハルくんは、私を想うあまり、全てを見せてくれない。
私が傷付くようなことや、嫌がるような話は全部隠す。
―――私が、弱いから。いつまでも…弱いから。
居なくなった隣のデスクに、無意識に視線を向けていた。
「メイ?明けましておめでとう」
早苗が、デスクで落ち込んでいる私に声をかける。
「明けましておめでとう、早苗」
「ちょっと…良い?」
早苗が改まって言う。
「うん?」
給湯室に向かうと、さっきの三人は居なくなっていた。
「あのさ…メイ。驚かないで聞いてね」
「うん…」
――――そんな前置きされると、なんだか緊張するよ…。
「私…冬吾と付き合うことになった」
早苗がうつ向きながら言った。
――――え?
「メイには噂になる前に…言っておきたくて」
「良かった…良かったね」
私は心から言う。
――――ずっと好きだった早苗の想いが通じて…。
――――大切な同期の冬吾が、早苗を選んで…。
本当に良かった。
「メイ…ありがとう」
「私も、早苗に言わなくちゃいけないことがあるの…」
私は、早苗に話すことにした。
――――ハルくんのこと。