咲との遭遇
「サクちゃん…」
「お、茗子!地元帰ってたんだ?」
年末年始休みの最終日、
彩と愛梨と久しぶりに飲みに出掛けた帰りに、
家の前でサクちゃんとばったり遭遇する。
「そっちこそ、地元にいて大丈夫なの?」
「明日には帰るよ」
「そっか…」
「うん…」
なんとなくお互い黙る。
「春のプロポーズ、受けたんだ?」
少しの沈黙を破ったのは、サクちゃんだった。
「ーーーえ…」
私は驚いて顔をあげる。
サクちゃんが私の左手を見て言った。
「分かるよ、だって仲西のは断ったって聞いたし」
「な…誰に?」
ーーー恐ろしい、どこから情報って漏れるんだろ?
「誰だっていいじゃん?」
サクちゃんが話をそらす。
「…なんでそんな表情してんの?」
ーーーやっぱり私、ひどい顔してる?
久しぶりに、サクちゃんと二人並んで歩き、
家の前の公園のベンチに座って話をする。
「ーーーー嬉しくないのかよ?春と結婚できるんだぞ?」
「嬉しい…よ」
ーーーーでも、今は…。
「でも…怖いんだ…」
「はぁ?」
サクちゃんがすっとんきょうな声をあげる。
「だって…ハルくんだよ?私の…ずーっと好きだった人で…憧れで…」
私は自分でも知らないうちに口から言葉が飛び出すのを止められなかった。
「高校の時、好きだったのに別れて…
なのに突然私の前に現われて…別れたあとも本当は想っててくれたのを現在になって知って…」
ーーー私は何も知らずに、航のこと好きになってたのに…。
その間も…ずっと。
ハルくんは私を想ってくれてた…。
「ーーあぁ、つまり罪悪感なわけ?」
「罪悪感…?」
「春がいなくなって、
自分は春じゃない人を好きになってたから。」
「そう…なのかな…」
「ーーーそんなの、春だって承知だった事だろ。てか、あいつだって最初からそれを望んでたし」
「え…どういうこと?」
ーーーー望んでた?
私がサクちゃんの表情を窺う。
「あ…やべ…」
サクちゃんが気まずそうに口を押さえる。
「ねぇ、サクちゃん。ハルくんが望んでたって何?
私がハルくん以外の人を好きになることを望んでたってこと?」
ーーーー私はまだ、ハルくんのことを全部知らないのだろうか?
埋まったと思っていた過去のピースは、
…まだ全て埋まりきっていなかったのだろうか?