過去の夢、未来の話
『愛してるって…言ってくれたのに』
ハルくんに怒りをぶつけるように口から言葉が出てしまう。
ーーーーこれは確か…ハルくんがアメリカに行くって聞かされてた時の記憶…?
『茗子、どうしたんだよ、急に…』
ハルくんが困惑する。
『急じゃない…急じゃなくて…』
気持ちがこみ上げてきて、涙が溢れてくる…。
『茗子、落ち着いて?』
私が勢いで、告白しようとすると、私の口にハルくんの指先が優しく触れる。
『駄目だよ…俺達は上手くいかない…』
―――――告白させても、もらえなかった。
『好きなだけじゃ、上手くいかないんだ…』
『ハルくん…』
『もし、何年か後に会って、お互いもっと大人になって…その時に恋におちたら、きっと上手くいくよ俺達は…』
『何それ…』
納得いかなくて、ハルくんを睨む。
『茗子…ごめん…』
私より辛そうな表情で、ハルくんが言った。
ーーー過去の私とハルくんを、第三者の目線から見ている自分。
あの時も…、本当はハルくん、私を好きでいてくれたの?
好きな人に、わざとそんな事言うのは…どれだけ辛かった?
卒業式の日、
『寂しいとか、行かないでとか言ってくれないんだ?』
ハルくんが冗談半分に言ったことば。
私は…航が好きになってたから、ハルくんにお別れできた。
ーーーーハルくんが、私と別れていなかったら…、
私は航と付き合ってなかった…。
ーーーーきっとハルくんと別れなかったら…、
会いたくて寂しくて…いつまでも泣いて過ごしたと思う。
ーーーハルくんなりの…私への思いやり。
ずっと私のことを考えてくれてた。
別れてからも…変わらずに優しくて…、
何かあれば、心配してくれて、護ってくれて…。
ーーーー私は…、
フラれたと思っていたから、優しくされるのがつらかった。
ーーーーそれも全部…本当は私を好きでいてくれたからだった。
『俺…あと二年ぐらいしたら、またアメリカに戻らなきゃならないんだ…』
ーーーー突然、夢の場面が変わり、つい最近のハルくんが告げる。
『え?』
『今の会社を買収したら、アメリカに戻る。』
『待って…ハルくん』
ーーーー行かないで…、離れたくない…。
やっとこうして、また想いが通じたのに…。
『ーーー茗子、今度は…一緒に行って欲しい』
『え…』
『結婚しよう?』
ーーーー驚いてガバッと起きる。
寝汗が凄くて、シーツが濡れている。
ーーーーそんな、怖い夢じゃなかったはずなのに…。
何だろう…
すごく後味の悪い気持ちが心に残っている気がして…。
ーーーどこまでが夢…どこまでが、現実だっけ?
過去の夢の内容は…どこまでが真実?
現在の夢の内容は…本当だよね…。
左手の薬指に、つけられていた指輪を見ながら、
私は複雑な想いでベッドから起きた。