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いっこの差  作者: 夢呂
【第四章】
271/283

クリスマスイブの残業

ハルくんに引き継いだ仕事は、全部私に戻ってきた。



「終わった…取りあえず今渡せる仕事はこれで全部です」

澤野さんが私に引き継ぎをする。


―――澤野さんは、新しい部署とのやり取りも始まり、

年末の連休に入る前だったから、バタバタ忙しくて、

今日はクリスマスイブなのに、残業していた。



「あの…澤野さんは、新しい部署に希望出したりしてたの?」


私が気になっていたことを尋ねる。


「いや、うん、まぁ…」

澤野さんが曖昧に返事をする。


「それより、今日はこのあと何か予定でもあります?良かったらごはんでも行きません?」


ーーーー他人行儀に、澤野さんが私を誘ってくれる。

多分、はぐらかしたんだ……。



「―――まっすぐ帰ります、お疲れ様でした」

私はあえてその誘いを断り、足早にフロアーを出る。


―――好きじゃない。ハルくんは、ただの初恋の人。


ただの…幼馴染み。

ただの…元彼…。



「茗子っ、ちょっと待てよ」

会社を出たところで、後を追ってきたハルくんに腕を掴まれる。


「何?離してよっ」

私が腕を振り回して抵抗する。


―――やめて…。優しく話し掛けてこないで…。


「まっすぐ帰るんだろ?」

「そう、だけど…ーーー」

―――そこで初めてハルくんの方に視線を向けた私は、

言葉が出てこなくなった。



ーーーーねぇ、ハルくん…。


スーツにそのマフラーはちょっとおかしいよ?


どうして…まだ使ってるのーーーー?


「なんで泣くの?てか、笑ってんの?」

泣き笑いの私にハルくんが困惑しながら言う。




「ーーーハルくん、私は怒ってるんだからね」

私は涙を拭きながら、口角があがったまま、言う。


「え、その表情(かお)で?」

ハルくんがますます困惑する。


「―――比嘉先輩のことでケンカ別れしたあと…仲直りしたのに、…付き合うことは出来ないって私をフッたよね?」


――――ねぇハルくん、覚えてる?

そのマフラーは…クリスマスプレゼントだったんだよ?


「私が遠距離恋愛できない?寂しい想いさせるから?

ーーーー私の気持ち勝手に決め付けて!」


――――どうして仲直りした時、

ハルくんの気持ちを全部話してくれなかったの?

アメリカの大学に行くつもりなことも。

遠距離恋愛になってしまうことも。


ーー私がそんなに、信用できなかった?




「茗子は勝手に決め付けるなと言うけど、実際すれ違いで仲西とは別れただろ?」

真顔でハルくんが話し出す。


「俺は、そうなりたくなかった。俺達は高校生(ガキ)だったし、俺は茗子が…あいつに盗られるのが嫌で堪らなかった。」


「ハルくん…」


「居ない間に盗られるぐらいなら、最初から手離してあげようと思ったんだ…。

その方がまだ自分に言い訳できるから…。

仲西に“お前のためにわざと遠距離を選ばなかったんだ”と恩着せがましく言うためにも…。

――俺のちっさいプライドの問題だよ…カッコ悪いよな…」


――――じゃあ……本当は……私のこと、ずっと?


「でも、もう離したくないから。」


ーーーーハルくん…。


私はハルくんの胸に飛び込んだ。


「私は…ハルくんなんて嫌い」

―――大好き…。

「うん…」


「すぐかっこつけるし、自分で勝手に決めちゃうし…」

―――その優しく頭を撫でる手も、力強く守ってくれる腕も…。

「うん…」


「だから…これからは何でも話して…」

―――この、温かくて安心できるハルくんの腕の中も…。

「うん…」



――――私がずっと好きだった人。初恋の人。


一個上の幼馴染み。


やっと、この差を埋めることが出来た。



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