新入社員時代
「茗子、何があった?」
ハルくんが座り込んでいる私に手を貸してくれ、
会議室の椅子に座らせてくれる。
「―――経営企画部の田中部長となに話してた?」
「――――…。」
「茗子?泣いてても…分からないよ?」
ハルくんが震える私の身体をそっと抱き締める。
――――不思議…ハルくんに触れると落ち着く…。
「私…入社したとき、経営企画部だったの…。男の人しかいなくて…人数も総務より少なかった。新入社員も私だけで…。」
私はハルくんにぽつりぽつり話し出す。
思い出したくなかった、出来事を――――。
「田中部長は、私に仕事を教えてくれた…でも」
――――社会人になったばかりの私には…、あまりに辛くて…。
「セクハラされるようになって…」
――――太股を撫でられたり、お尻を触られたこともあった…でも…はっきり嫌と言えなくて…、エスカレートして…。
『愛人にならないか?』
――――突然そんなことまで言われた。
「私、悩んだ…悩んで…会社の相談窓口に連絡したの…」
――――なのに、なぜか田中部長にはなんのペナルティもなく、私は…突然総務部に異動となった。
「茗子、ごめんな…。そういう話だったなんて…」
「………。」
私は黙って首を振る。
「茗子、もう大丈夫だよ…」
ハルくんが優しく背中を撫でてくれる。
「もう絶対…、そんな目には遭わせないから」
ハルくんが強い口調で言った。
その時の私は、まだ何も知らなかった。
――――ハルくんがうちの会社に来た、理由を…。