彼氏彼女の存在
「おはようございます、相田さん」
朝から気まずい人の一人に会ってしまうなんて…、
ついてない…。
「おはようございます」
澤野さん…に挨拶を返して、私はエレベーターに乗り込む。
澤野さんも後ろから乗ってくる…。
さらに何人か同時に乗り込んできて、私が扉を閉めようとボタンを押すとき、
「ちょっと待ってください、乗りますっ」
と乗り込んできたのは…冬吾だった。
ドアの目の前、私の隣に冬吾が、私の真後ろにハルくんが居たー―ー―。
―――き、気まずさ倍増…。
私は目の前にあるエレベーターのボタンを意味なく凝視していた。
「おはよう…」
冬吾が小さい声で、私の方を向いて、挨拶した。
「あ、おはよ…」
私も、目は合わせずに応えると、ちょうど五階に着いた。
「昨日の人…って元彼?」
冬吾が私に問い掛ける。
「うん、まぁ…」
「より戻したんだ?良かったじゃん…」
冬吾が無理して笑う。
そんな顔をされると、胸が痛む…。
「戻してないよ、ただ東京出張だったみたいで偶々会っただけで…」
「そっか…」
そう言うと冬吾は営業部のフロアーに行ってしまった。
――――私が何を言っても、冬吾を傷付けたことには変わらないのに…。
言い訳しているような気分になって、後味が悪い。
「昨日は邪魔してごめんな」
後ろからボソッと囁かれる。
「邪魔って…」
耳を押さえながら、ハルくんを見上げる。
「仲西くん、何にも変わってなかったな!」
ハルくんが笑って言う。
「――――そうだね、誰かさんとは大違いっ」
私がハルくんを見上げたまま、皮肉を込めて言う。
「なんか、怒ってるよなー、なんで?」
ハルくんが顔を覗き込む。
近くに整った顔があるだけで赤面してしまう。
「別に?私なんかに構ってると、彼女が嫉妬するよ?」
私が早足で総務部のフロアーに向かうと、ハルくんもすぐに追い付いて話し掛けてくる。
「は?彼女…?」
「居るんでしょ?隠さなくていいからっ」
訳も分からず、苛立ちが増してきてしまう。
「あぁ、彼女!!」
誰のことか、やっとピンと来たように、ハルくんが笑って言う。
「もしかして、美樹さんから聞いた?」
ハルくんが私に悪戯な顔で微笑む。
「ーーーーだったら何?」
私が若干苛立ちながら言うと、
「別に?」
ニコッと微笑むと、
ハルくんは素っ気なく言いながら、先を行ってしまう。
ーーーなんなの…、もうっ。
モヤモヤが晴れないまま、私もロッカーへと向かったーー―。