帰る
冬吾とは別れた。
航の甘い誘惑にも、断るつもりでいた。
―――でも、どうしてこんなに罪悪感と、疎外感を感じているんだろう…。
「茗子の会社のひと?」
航が三人を見ながら軽く会釈する。
「うん…同期」
私が気まずい気持ちのまま答える。
「お会計、お願いします」
「え、ちょっと待てよ…」
店員をつかまえて、私が言うと、航が慌てたように言う。
「私は帰るから」
お会計を済ませて、店を出る。
「茗子、待ってって…」
航の声が後ろから追いかけてくる。
私は…振り向かずに立ち止まる。
「もしかして…さっきのが茗子の彼氏…?最低じゃねぇか、女二人で居酒屋に来るなんて…」
航が苛つきながら言う。
「最低なのは…私だから」
「え?」
私の声が届かなかったのか、航が隣まで歩み寄る。
「―――私たち、別れたから…」
「えっ…別れた?……なんで?」
航が驚いたように私の顔を見つめる。
「―――…。」
「言いたくない…って顔だな…」
「同じだよ…」
私は、重い口を広く。
「サクちゃんの時と同じ…」
―――――好きな人と別れて…寂しかった心を埋めようとして…利用した。
――――相手の優しさにつけ込んで…。
結果、中途半端な気持ちで、相手を傷付けた。
相手のことを想う人も、傷付けてた…。