伝えられない
「付き合わない?」
「へっ?」
居酒屋で飲んでいた時に、不意に言われたことば。
「俺と…付き合おう?メイ」
「でも私…」
「大丈夫、忘れられるから。“航”のこと、忘れるために、付き合おう?」
「……冬吾」
「“航”のことは、思い出にしよう?」
冬吾が優しく微笑むから、私は、胸が暖かくなった。
――――菜奈の結婚式に行く話をしたとき、
冬吾に突然告白された。
すっかり飲み友達になっていた私は、
最初は戸惑ったけど…。
でも、
いつまでも報われない恋のことを考えているより、
幸せになれると思った。
冬吾は、いつだって私の話を聞いてくれる。
―――優しくて頼りになる同期。
冬吾みたいな大人な男に、愛されたら…、
きっと幸せなんだと思う。
分かってる…。
そんなことは分かってる。
そして、それは…私にとって恋ではないことも。
「おはよ、メイ」
朝、総務部のフロアーに、冬吾が立っていた。
昨日のこともあって、目を合わせられない。
「あの…昨日は…」
「ごめんな、俺の方こそ」
私が謝る前に、冬吾が言いながら頭をポンと撫でる。
「今週末、どこか出掛けよう?」
笑顔で冬吾が言う。
「……冬吾、私…」
私が断ろうと口を開きかけた時、
「あ、俺今日これから外回りなんだ、また連絡するな」
冬吾が私の返事を避けるように行ってしまう。
「今のが、彼氏?」
立ち尽くしている私の耳元で、突然声がした。
「ひゃぁ…っ」
「変な声!」
私が驚いて耳を押さえると、ハルくんが笑って言う。
「おはようございます、相田さん?」
改めて挨拶される。
私の心臓がうるさく鼓動を打つ。
――――急に耳元でやられたから、ビックリしてドキドキしてるだけ…。
私はハルくんを、…好きになったりしないんだから。