分からない
少しだけ残業になったと連絡が来たので、
会社から歩いてすぐの本屋に暇潰しをしていたら、
冬吾が本屋まで走ってきた。
「ごめん、遅くなって」
息を切らせて、冬吾が言う。
「お疲れさま」
必死で走ってきたのかな…?
ちょっと笑いながら私が言うと、
「お詫びに、ごはんご馳走する。行こっか」
冬吾が言いながら、私の手を繋ぐ。
――――手…。
冬吾とはキスすらまだしたことがない。
でも手を繋ぐのは初めてじゃないのに、
なんだかモヤモヤする。
私のマンションから近くのピザ屋さんで、
ピザを食べて、私の家に帰る。
「お邪魔しまーす」
冬吾が私の家に来たのは、付き合ってからは初めて。
同期と何人かで来たことはあったけど…、二人で会うのは初めてだった。
「何飲む?ビール?」
私が冷蔵庫の前に立ちながら尋ねる。
「じゃあビールもらおうかな?」
冬吾がソファーから答える。
缶ビールを2本、手に持ってソファーに座る。
冬吾はつけていたテレビを見ながら、口を開く。
「メイさ…、結婚式で何かあった?」
「え?」
ドキンと心臓が跳ねる。
冬吾がビールをゴクゴクと飲んでから、また話す。
「なんか、あんまり話してくれないし…。俺、変なことばっか考えて…」
「変なこと…って」
聞き返したら不利になるのに、私は…つい聞き返していた。
――――それは…。
「浮気とか?」
冬吾が言う。
「………ううん、ないよ。まさか…」
私が動揺を隠すように半笑いで言うと、
「―――メイは…本当に嘘が下手だね。」
冬吾が切ない顔で笑って、私の頬に手を伸ばす。
身体がビクッと反応する。
冬吾の顔が近付いて…キスされそうになる。
「ちょっ…」
私の持っていたビールが、私の胸元にこぼれる。
私が…――――咄嗟に拒絶したから。
「メイ?―――俺のこと嫌いなの?」
冬吾が傷ついた顔で言う。
――――好きだよ…好きだから付き合おうと思ったのに。
身体が勝手に…。
「冬吾…―――ごめん…」
私がなぜかポロポロと流れ出る涙を拭いながら謝る。
「メイ、着替えないと…」
冬吾がそう言いながら、私のワイシャツのボタンを外していく。
「やめて…お願い…」
「だめ、やめない…」
冬吾が私の胸元にキスマークを付けていく。
「………やぁっ」
必死に抵抗しながら、私はソファーに押し倒された…。
「………うっ…んっっ」
――――嫌だ。違う。
――――こんな気持ちのまま、したくない…。
でも、冬吾は唇を奪い、無理矢理キスをする。
「冬吾っ…」
暫くして、冬吾からのキスから解放される。
「―――ずっと好きだった。やっと手に入れたと思ったのに…。」
冬吾がうつ向いて呟く。
「こんなことになるなら、結婚式なんか行かせなきゃ良かった…」
私のはだけた服を、直しながら冬吾が言う。
「今日は、帰る」
「――――冬吾…」
「でも、別れないから。」
冬吾が私の声を遮るように言い捨てると、部屋を出ていく。
あんな必死な冬吾…初めて見た。
―――私のこと…ずっと好きだったの?
知らなかった。
私、冬吾には航の話ばっかりしてたのに。
私は?――――冬吾が…好き…?