幼馴染み
「え、相田さんと澤野さん、そんなに仲良くなったんですか?」
「一日で?」
女子社員の人たちが私を妬むように見る。
――――ハルくんが絡むといつも、こんな視線を浴びるな…。
懐かしいな…とか考えている私は、
少しだけ心に余裕が出来たのかなと思う。
「仲良くなった…というか、僕たちは生まれたときからの幼馴染みなので」
ハルくんがいきなりそんな発言をする。
――――ちょっと…なんでそれ言っちゃうの…。
「「えぇー!?」」
悲鳴のような驚きの声が、エントランスに響く。
「じゃあ、お疲れ様でした。―――茗子、行こ?」
呆然と立ち尽くす私を連れて、ハルくんが歩き出す。
「相田さんと澤野さん、幼馴染みって…えぇ?」
「え、どういうこと?」
背後から、困惑した声が聞こえてくる。
『茗子、行こ?』
部活帰りにハルくんが言ってくれた言葉。
―――付き合ってた時も、そうじゃない時も。
久しぶりに聞くと、すごく甘い響き。
「離してっ…」
会社から出てすぐ、我に返ってハルくんの手を振りほどく。
「私、彼を待ってたところだったんだから」
ハルくんの顔を見ずに言う。
「付き合ってくれてありがとな。助かった」
ハルくんが笑顔で言うと、さっと私から背を向けて歩き出す。
私は…懐かしさを感じながら、その背中から目を離せずにいた。
――――懐かしいだけのはずなのに、
スーツ姿のハルくん、大人になったハルくんは初めてで…。
まるで、全く知らない人で…。
なんだろう、胸がドキドキときめいてる。
――――あの頃みたいに……。
そしてなんだろう、
あっさり背を向けられた時に感じた…あの寂しさは…。