食堂での会話
お昼は大抵、オフィスの中にある食堂に向かう。
営業部の果歩と冬吾は、外回りもあるからあまり一緒にならない。
私は、同じ総務部の人達とごはんを食べる。
同期入社の早苗は、同じ歳ですぐに仲良くなった。
「メイのところに来た、中途入社の澤野さん、かなり…というか社内の殆どの女子社員の注目の的ね」
早苗が定食に箸をつけながら話す。
「あんな彼がいたら…私即寿退社しますよ…」
一つ後輩の美樹がため息をつきながら言う。
「メイは良いなぁー、冬吾というエリートな彼がいるのに、あんなイケメンにマンツーマンで仕事できて」
早苗の目が怖い…。
「なになに?誰の話?」
突然私の背後に、冬吾の声がした。
「一緒に食べよ」
私の隣に座りながら、冬吾が言う。
―――昨晩の航のことも、今朝のハルくんのことも…、冬吾には話していないから気まずい。
罪悪感で顔が見れないままだ。
「メイが仕事教えてるの、今朝紹介された澤野さん」
早苗が怨めしそうに言う。
「へぇ、メイが?」
クスッと冬吾が笑う。
「頑張れよ、ミッキーの時みたいにならないように!」
―――ミッキーは、美樹の愛称。
「ちょっと冬吾さん、それってどういう意味ですかぁ?」
美樹か頬を膨らませる。
「トラブルメーカーで、残業続き…事件?」
クスクス早苗が思い出し笑いをする。
「それ、私のせいじゃないですよー、社員の人が書類の締切守らないからー」
美樹が必死に弁解する。
「そうだよ、ミッキーが気付かなかったら、もっとやばい事態になってたんだから…」
私も、美樹をフォローする。
「―――あ、あれ…澤野さんじゃない?」
早苗が食堂の出入口を見ながら、言う。
「あ、本当だぁー、マジかっこいい…久しぶりにときめいたぁ」
美樹のうっとりと呟く姿を見ながら、
私は、背中を向けていたから振り返らず、定食を食べる。
――――私には、関係ない。ただの、仕事上の人。
自分に言い聞かせるように、私はそんなことを考えていて、
隣にいた冬吾が私を見つめていたことに、
気がつかなかった…。