仕事が手につかない
「メイ!!ちょっと!」
朝礼が終わると、同期の伊藤果歩が私のところに走ってくる。
「総務部に入った爽やかなイケメン!仲良くなって私に紹介してよね?」
――――果歩は、社外に彼氏がいるのに、いつも社内のイケメンを狙おうとしている。
ミーハーなところは、彩に似ているが、
決定的な違いは、果歩が肉食系女子だということ。
―――私がハルくんと幼馴染みでしかも元彼とか知ったら…果歩はどうするのだろう…。
「今度、絶対ごはんに誘うんだよ?分かった?」
果歩が営業部に戻りながらも念押しする。
私は、曖昧に笑ってごまかしながら総務部に戻る。
部長が、改めてハルくんを紹介した。
「―――というわけで、澤野くんは…相田さん、ちょっと」
名指しされて、私は覚悟を決める。
ハルくんが私の姿を見て、驚いて目を見開いていた。
―――確かに今度入ってくる中途社員に仕事を引き継ぐように言われてたけど…、それがハルくんだったなんて。
「相田さんから、仕事を教えてもらってください」
部長が私に視線を向けて、ハルくんに言う。
「はい。―――宜しくお願いします、相田さん」
ハルくんが、私に微笑んだ。
―――私の好きだった、笑顔で…。
「ハルくん…どうしてここに?」
二人で隣同士のデスクになり、仕事を説明する前に、
私は気になって聞いてしまった。
――――ただし、女子社員の視線が痛いので小声で。
「久しぶり…とかそういうのは無いんだ?」
ハルくんは、私の動揺を面白がっているのかクスクス笑う。
「たまたま、だよ?そろそろ、日本に戻ろうかなって転職活動してたら、御社に拾って頂いた。」
ハルくんが、楽しそうに声を潜めて言う。
「それにしても茗子が大人になってて驚いた。あ、今は相田先輩か。」
私は、そろそろ仕事をしているふりをしないと怪しまれると思い、咳払いをしてから話し出す。
「澤野さん、私からお渡ししたい業務内容ですが…」
ハルくんは、にこやかに私を見つめる。
「―――メモ、取ってます?後で困ると思いますよ?」
ハルくんの視線が気になって、私が業務内容の説明途中にそう言うと、
「メモ、取ってますよ。相田先輩、ご忠告ありがとうございます」
ハルくんが、ノートを見せながら微笑んで言う。
――――完全に、ハルくんにペース乱されてる…。
昼休みの前なのに、私は一日分の疲れがどっと出てしまった。