航くん
「茗子っ」
バレンタインデーの日、部活を終えて一人とぼとぼと歩いていると、駆け寄りながらハルくんが声をかける。
「ハルくん…どうして居るの?」
「図書館に居たんだ、今帰り?一緒に帰ろう?」
―――同じ方角で、家が隣だとこういう時、断りようがないな…。
「うん…」
「元気ないな…、仲西となんかあった?」
ハルくんが真剣な表情で言う。
「それとも、まだストーカーに遭ってる?」
「え、ハルくんがなんでその事知ってるの?」
驚いてハルくんに尋ねる。
「クリスマスに家の前で会ったとき、聞いたんだ…仲西に。おばさん居なくて茗子一人だったから心配してたよ、あいつ。」
ハルくんが言う。
「気にしてあげてくれって、頼まれた」
――――航くん…。
「その、ストーカー…っていうか、一年生の子、航くんが捕まえてくれて…さっき謝ってくれたから…解決したの。」
――――航くん…航くん。
「そっか…良かった…」
ハルくんがホッとしたように微笑む。
「―――ハルくん、今年もチョコたくさんだね」
ハルくんが持っていた手提げの紙袋を2つにどうしても目がいってしまう。
「茗子から、貰ってないけど?」
ハルくんが悪戯っぽく笑いながら言う。
「無いもん…」
今年は…一個しか用意してなかったから。
「寂しいな」
ハルくんが、ははっと軽く笑いながら言う。
「―――あいつには、あげなかったの?」
しばらく歩いて、バス停に着くとハルくんが真顔で聞く。
――――“あいつ”が誰を指すのか…すぐに分かる。
私は、黙ったまま首を振る。
「そっか…」
ハルくんは、それ以上何も聞いてこなかった…。