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いっこの差  作者: 夢呂
【第三章】
236/283

逃す

放課後、緊張しながら教室を出ていく愛梨を見送りながら、

私は―――部活に行こうとしていた。


「茗子ちゃん、ちょっと良いかな?」

航くんが深刻そうに私に声をかける。


――――航くん…。

航くんの顔を見たらなんだか急に泣きたくなった。




なぜか、航くんは屋上に向かう。

私も後をついていく。


屋上の扉を航くんが開けると、知らない男子が立っていた。

―――誰…?


「茗子ちゃん、こいつが一連の犯人。一年の高山春樹。」

航くんが静かに言う。

「え…」

改めて、目の前でうつ向いている男子をよく見る。


――――教室で…私の机に座ってた人…!?

なんとなく見覚えがあって、気づく。


「すみませんでしたっ」

高山くんは、必死で頭を下げる。


「茗子先輩に…一目惚れして…。でも僕なんか…相手にしてもらえないし…」

ボロボロ泣きながら、話してくれる。

「憧れてて…叶わない恋だったから…つい…っ」



「お前のせいで、茗子ちゃんがどれだけ怖い思いしてたか!!」

航くんがすごい剣幕で怒る。


「もう…いいよ。もう、そういうことしないでくれれば…」

私が呟く。

「茗子ちゃん!?」

航くんが納得いかないような顔をしている。


「―――本当に、すみませんでした…。」

泣きながら高山くんが、私に向かって歩いてくる。


反射的に後ずさりしてしまう。

――――な、なに?


「貸せ。」

私の前に航くんが立って、高山くんから何か受け取る。


――――あ…それは…。



「すみません…」

それだけ言うと、高山くんは走って屋上から出ていった。




「ちょうど俺が体育の授業前に忘れ物して戻ったら…あいつが教室にいるところを見つけて、捕まえたんだ。

直接謝らせようと思って…わざわざ放課後に呼び出してごめんな」

航くんが高山くんが出ていった扉を見ながら言うと、

「はい、良かったな!戻ってきて」

チョコが入った小箱を私に渡す。


「あ、これ…はー―――」

貴方(こうくん)にあげようとしていたんです。


私が照れながら、そう言おうとした時、

「春先輩に渡すんだろ?――頑張って!」

航くんが笑顔で言う。



――――え…。

目の前がショックで真っ暗になる。


「あ、部活急がねーと!茗子ちゃんも戻ろう?」

何事も無かったかのように、航くんが明るく言うと、

屋上から出ていこうとする。



『頑張って』――――って…。




呆然と立ち尽くして、私は動けずにいた。



「えっ、ちょっ…どうした?」

振り返った航くんが、私の様子に驚いて駆け寄る。

「茗子ちゃん?」



――――好きになってた…。航くんのこと…。


でも…、航くんは私のこと…“友達”だと思ってる。



朝、クラスの女子たちが、

航くんにチョコを渡していた姿を思い出す―――。



私は、チョコの入った箱を握りしめながら…

唇を噛み締めてうつ向く。


――――渡せない…。渡せるわけないよ…。







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