逃す
放課後、緊張しながら教室を出ていく愛梨を見送りながら、
私は―――部活に行こうとしていた。
「茗子ちゃん、ちょっと良いかな?」
航くんが深刻そうに私に声をかける。
――――航くん…。
航くんの顔を見たらなんだか急に泣きたくなった。
なぜか、航くんは屋上に向かう。
私も後をついていく。
屋上の扉を航くんが開けると、知らない男子が立っていた。
―――誰…?
「茗子ちゃん、こいつが一連の犯人。一年の高山春樹。」
航くんが静かに言う。
「え…」
改めて、目の前でうつ向いている男子をよく見る。
――――教室で…私の机に座ってた人…!?
なんとなく見覚えがあって、気づく。
「すみませんでしたっ」
高山くんは、必死で頭を下げる。
「茗子先輩に…一目惚れして…。でも僕なんか…相手にしてもらえないし…」
ボロボロ泣きながら、話してくれる。
「憧れてて…叶わない恋だったから…つい…っ」
「お前のせいで、茗子ちゃんがどれだけ怖い思いしてたか!!」
航くんがすごい剣幕で怒る。
「もう…いいよ。もう、そういうことしないでくれれば…」
私が呟く。
「茗子ちゃん!?」
航くんが納得いかないような顔をしている。
「―――本当に、すみませんでした…。」
泣きながら高山くんが、私に向かって歩いてくる。
反射的に後ずさりしてしまう。
――――な、なに?
「貸せ。」
私の前に航くんが立って、高山くんから何か受け取る。
――――あ…それは…。
「すみません…」
それだけ言うと、高山くんは走って屋上から出ていった。
「ちょうど俺が体育の授業前に忘れ物して戻ったら…あいつが教室にいるところを見つけて、捕まえたんだ。
直接謝らせようと思って…わざわざ放課後に呼び出してごめんな」
航くんが高山くんが出ていった扉を見ながら言うと、
「はい、良かったな!戻ってきて」
チョコが入った小箱を私に渡す。
「あ、これ…はー―――」
貴方にあげようとしていたんです。
私が照れながら、そう言おうとした時、
「春先輩に渡すんだろ?――頑張って!」
航くんが笑顔で言う。
――――え…。
目の前がショックで真っ暗になる。
「あ、部活急がねーと!茗子ちゃんも戻ろう?」
何事も無かったかのように、航くんが明るく言うと、
屋上から出ていこうとする。
『頑張って』――――って…。
呆然と立ち尽くして、私は動けずにいた。
「えっ、ちょっ…どうした?」
振り返った航くんが、私の様子に驚いて駆け寄る。
「茗子ちゃん?」
――――好きになってた…。航くんのこと…。
でも…、航くんは私のこと…“友達”だと思ってる。
朝、クラスの女子たちが、
航くんにチョコを渡していた姿を思い出す―――。
私は、チョコの入った箱を握りしめながら…
唇を噛み締めてうつ向く。
――――渡せない…。渡せるわけないよ…。