捕まえた~航目線~
「お前、どんだけチョコ独り占めする気だよ」
体育の授業が始まる前、着替えてから体育館に向かう時、
クラスのやつらが、俺をどつきながら言う。
「独り占め…って」
毎年何個かは貰っていたが、今年の数には自分でも驚いていた。
しかも、クラスの女子からの義理チョコだけじゃなくて、
本命もある…。
―――まぁ、俺の本命の人からは今年も貰えないけどな…。
曖昧に笑ってごまかしながら歩く。
「あ、やべ」
体育館に着いてから、体育館シューズを忘れたことに気づく。
「浮かれてるからだぞー」
男子にからかわれながら、俺は走って教室に取りに戻った。
教室の近くまで来ると、もうすぐチャイムが鳴るからか廊下にも誰もいない。
自分の足音が響く、
そして、隣のクラスを通りすぎた時、
―――誰もいないはずの教室から、ガタッと物音がした気がして、
俺は走るのをやめて、そっと教室を除く。
―――あいつ…!
俺はすぐに教室に入る。
すると、俺に気づいた男は、もう一つの扉から出ていってしまう。
―――逃がすかよ…!
授業の開始のチャイムが鳴り響く中、
俺は、―――ずっと捜していた男を追いかけた。
前に一度教室で見かけた男…あいつに間違いない!!
暫く廊下を走って、階段を降りて…、
気付くとそいつを裏庭に追い込んでいた。
「ごめんなさい、ごめんなさい…」
謝りながら顔を隠すように両手で覆う。
「俺に謝るな、茗子ちゃんに謝れよ!」
俺は殴りたい気持ちを抑えて、話しかける。
―――茗子ちゃんがどれだけ精神的に堪えていたか…。
どんだけいつも怯えていたか…。
「お前、一年か?名前は?」
「…はい、高山 春樹、1年です…」
「茗子ちゃんのもの、盗ったな?」
「すみません…つい」
「盗撮、したのもお前か?」
「あまりに可愛くて…」
「お前、これ犯罪だぞ?しかも今持ってるそれ、それも茗子ちゃんのモノだろ…」
両手で顔を覆う時に目に入った小さな箱。
明らかに、さっき教室で盗ったものだ。
――――きっとそれは…、チョコレートなんだろう。
春先輩への…。